【レビュー】『聲の形 4巻』大今 良時

標準

んー大事なテーマを扱っている作品と信じたいが、ちょっと冗長感でてきてるな。

『聲の形(4) (講談社コミックス)』




面倒なのであらすじ略(笑)。


なかなか話がきつい・・・このきついというのはいうなれば昔自分がやった壮絶な失敗とかを思い出した時に皆が「ああああああ~!?」となるであろうあの系のキツさで、本作品は基本的にそういったエピソード満載というか、ほぼそれだけでできてるといっても過言でないので、読んでて正直爽快感は皆無である。

まあそういった「ああああああ~!?」を繰り返しながら若いが故に少しでも前へ進んでいきたい、それが一度死を決意してみたにもかかわらず、生を選択してしまった主人公・石田のたどらざるを得ない道なわけだが、そのキツさに拍車をかけているのが周りにいる人間たちの存在なわけで。

石田がひとりで葛藤するだけでもつらいのに、まわりがさらにそれに輪をかけてエゴを振りまく人間たちばかりなのでキツささらに倍、というか事態はますますこじれていく。

で、結局のところなにがこの混沌の原因になっているかというと、皆、自分の望む世界をつくりあげるには他人との関係性を必要としているのに、肝心のその他人を自分の必要とする視点でしかまったく見ようとしないということ。
ある意味「そこ」に、自分の「そば」にその人が立っていても、本当の意味でその人を「見て」いない。
(そういう意味では主人公・石田視点の時にでてくる「X」描写=他人の顔にばってんが付いている、というのは逆に誠実なのかもしれない―そのことに自覚的という意味で)

以前の巻のレビューで「この作品に出てくる大人が総じてクズ」的なことを書いたが、この点まさにそれで、要はこの作品ではいい歳をした大人ですら自分の都合のいいようにしか他人を見ない・見ようとしないそういう人物しか出てきていない。

本巻では西宮の母のエピソードが出てきて一見お涙ちょうだいエピソード=母がああなるにも理由があった的なエピソードと読めなくもないが、本質は違う。

要はどこまでも相手を見ていなかった人なわけだよ、この母親は。

まさにこんな昔から「自分の都合のいいところだけしか見てこない人」だった。だからいざとなった時にこんな羽目に陥るしかなかった。そういう意味で徹底的に救いのないキャラクターだと思う、ある意味作者鬼やな、クズはどこまで行ってもクズというのを(意図してなかっただろうにしても)描いてしまっている。

ただ唯一の救いは、そういった母親がその母親=西宮たちの祖母の死によって、少し変化の兆しを見せ始めているところか。しかしそう簡単に人間の本質は変わらないと思うが、さてどうなるだろう。

要はこの作品に出てくるほとんどの登場人物は、自分の都合のいいようにしか世界を見ようとしない割に、すごく体裁というか”世間から見られる自分”を気にしている、死ぬほど気にしている人物ばっかりなのだ。

しかしそんな中から主人公石田は若さ故の自己嫌悪から「自分の都合のいいようにしか世界を見ない」ということをやめた。

結果、彼はその心の鎧をはずしてしまった状態、その弱々しい・自分に全く自信のない状態のままで、ありのままの世界に面と向かっていかざるを得ない羽目に陥った。
加えて前述のように、彼以外の登場人物たちのほとんどが自分のみたい世界だけしか見ようとせず、そのための心の鎧をがっつり着こんでいるような状態―そう昔の彼のように。
そういった鎧を着込んだ連中に周りを囲まれておしくらまんじゅうやらされているような状態なわけで・・・。

そらキツいわな。

ここまで書いてようやく気付いたが、本作品を読んでて爽快感ゼロの理由は、こういった石田の置かれているキツさだけではなく、登場人物たちのエゴむき出しの部分なんだな。

もちろんそれは弱さの裏返しでもあるわけだが、彼らはその弱さ故に自分を肯定してくれる他者を文字通り”渇望”している。だから執拗に絡んでくるのだが、絡んでくる割にはその対象をまともに見ようとしない―なのでその渇きは当然、永遠に満たされることはない

この、ある種地獄のような堂々巡りなことよ。

その地獄めぐりからどうやって抜けだそうとするのか?それが本作品の本当のテーマなのかもね。

本作品を必要としている人は少なからずいるとは思うが、果たしてその本来必要としているひとたちはどれぐらい目を通すかな?

そういう人たちが読むならば、本作品はある意味耐えがたい激痛を伴う作品でもあると思うのだが。







※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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