【レビュー】『まおゆう魔王勇者5巻』浅見よう

標準

本作前半最大の見せ場の一つ、メイド姉による
私は虫にならない!
がついに!このセリフを、今この国の大人がどれだけ真面目にとらえることができるだろうか?(含む自分)

『まおゆう魔王勇者(5) (ファミ通クリアコミックス)』



魔王による数々の施策が実を結び、国力を付け始めた南部諸国を牽制すべく、中央聖光教会は紅の学士(=魔王)を異端審問にかけることで揺さぶりをかけようとする。しかし魔王本人は魔界の鳴動を静めるため、冥府宮で歴代魔王の亡霊と戦っていた―幻術の指輪で魔王の身代わりとなったメイド姉は、なすすべもなくその場を見守る群集に向かって静かに、しかし熱く語り始める―「私は農奴の子として生まれました・・・」その捨て身の熱い演説は、その場にいたすべての心ある人たちを動かす―この本作前半最大のクライマックスシーンを含め、暗躍する青年商人、そのカウンターパートにまで成長した商人子弟をはじめ、貴族子弟、軍人子弟といった魔王が蒔いていった種が、いまその花を咲かせ始める―。




本作前半最大のクライマックスシーンである、メイド姉による演説シーンを収録した巻。

原作を読んだときにも感じたが、この演説は、こういったフィクションという体裁にあっても、人として本質的に大事なことを伝えている名シーンといってよいだろう。

もちろん、定型的で稚拙という批判もあるかもしれないが、だからといって、ここで語られていることの本質が取るに足らないものである、とは誰にもいえないのではないか。

人が人であるためには”人として生きる”という意志、それが不可欠なのだ―それを説いた名シーンである。

そしてそんな魂のほとばしりを叫んだメイド姉に対して、女騎士がかける言葉がいい。

「辛い役目だったな よく戦った

そう、「頑張った」でなく「戦った」なのである。
なにげにこの違いは重要だ。見た目の言葉面のよさだけの演説シーンでなく、本質を分かったうえで書かれている、ということだろう。

また本作は、魔王の薫陶を受けた各弟子たちの群像劇でもある。
ひとりなにも出来ずに無力感にさいなまれていたメイド姉が、ここでその花を咲かせたように、各弟子たちの成長振りも本巻では描かれており、なにげに熱い展開が続く。

商人子弟は、ある意味本作でのもう一人の魔王ともで言うべき青年商人に喰らいつき、貴族子弟はその青年商人の依頼を受けその弁舌でみごと南部諸王国の劣勢を覆し、軍人子弟は兵力に優る白夜の国と傭兵の混成部隊の侵攻に対し、「おのおの方 笑うでござるよ」と名指揮官振りを発揮する。

しかし、逆に言うと彼らがその才能を発揮し始めた、ということは状況がかなり悪化し始めている、ということでもあった。
中央からの宣戦布告、それを後ろ盾にした白夜の国の侵攻―加えて魔族の同時進行・・・・・。

この事態を終息させようと、魔界境界へと向かう前後の勇者の表情―少年が過酷な現実を前に大人にならざるを得ないような寂しげなその表情―というのは本浅見版でも出色のカットの一つだと思う。

そして、そういう過酷な境地へ飛び込んでいこうとする勇者の前に、ある意味本作の裏のヒロインとでも呼べる、女魔法使いがようやく登場してくる。

いやー、とにかくパート的に凄く盛り上がるエピソードが詰まった巻なので、非常に読み応えあり。
話の流れ的にそういうタイミングだからとはいえ、非常にお得感を感じる一冊だった。




※ただ本巻が発売、ということがあったのかもしれないが、web上の連載のサイトの不定期ぶり、というのは正直あまり感心しないな。

隔週=毎月第2第4金曜更新、とあるのだが、これが非常に崩されやすくて、以前は「今週は休載します」的な断り書きがあったのが、最近はそれすらもなく更新されていない。

これは正直編集側が怠慢すぎるだろう。
編集側がこの程度の仕事も出来ないのなら、いっそのこと「不定期連載」とでもうっておいてくれた方が、ストレスがなくてよい。製作が遅れているのが原因なら、それはそれでよいので、現状がどうなのかということをアナウンスするのは―一個人のサイトならともかく―最低限の仁義ではあると思うのだが。

このあたりは上から目線の物言いで申し訳ないが、一読者としては猛省を促したい。
期待している客にストレス与えてどーすんだ!?
(まあそれほどマネタイズにつながってない、ということなのかもしれないけどな・・・)





※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

コメントを残す