【レビュー】『ベルセルク 35巻 』三浦建太郎

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新刊出たことは素直に評価。けどこのピッチで広げた風呂敷はたためんのかw

『ベルセルク 35 (ジェッツコミックス)』



スケリグ島・・・だったかな?(なんせここまでの分よそへ貸し出し中なので)へ向かう最中の船旅が継続中。
港で人攫いやってた髭海賊が髭骸骨になってお礼参り→退けるも被害。船の修理に立ち寄った島で・・・。

といった展開だが新キャラの女の子がかわいい(笑)。
あと島全体の雰囲気というか、辻に祭られている海神さまの描写のディティールはなんとなくクトゥルフ神話のそれを下敷きにしているようでいい感じ。

ただし激しく「続く次号!乞うご期待!」

な感じなので正直今巻だけではなんとも(苦笑)。
描写のディティールがぐっとあがってしまったのでいまの連載ペースは仕方がないともいえるが、(別作品とはいえ)真面目に内職やってる永野護と違って何か他のことしてるっていうのも見えてこないので、ちょっとさぼりすぎでないかなあ(笑)。

ぜひとも広げた風呂敷はたたんで終えていただきたいものではあるがこれいかにw








※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

【レビュー】『逢魔が橋』近藤ようこ

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それは「彼岸」にかかる橋か─

近藤ようこ先生最新刊。

『逢魔が橋』



青林工藝舎からの一連の時代物のシリーズで、今回も舞台的には中世と思しきところにとりつつも、作品の持つ雰囲気はどことなく今昔物語風に感じるのは自分だけか。

今回は表題になっている「逢魔が橋」の連作と数本の短編からなる。

「逢魔が橋は」作中の狂言廻しとなる美形の橋守りの青年がその橋を渡ろうとするさまざまな人々の物語に関わるスタイルの連作。

その掌中のもうひとつの「目」を持ち出すでもなく、ひとによって渡れる/渡れぬと変化するその橋自体が既に異界=「彼岸」なのかもしれない。

こういう境界に「橋」を設定し、そこに橋守を置くというというのは、これまであったようでなかったような。
「その橋は静かな山中に人知れずあった」というフレーズが物語の冒頭と最後に定型として入るのもよい。

そして近藤作品の魅力はそういう怪(あやかし)の世界と非常に柔らかな描線を持つ黒髪の女性キャラクターの清潔な色気の混合だなあと再認識。特に橋の向こうで年季明けに許婚との婚礼を夢見る娘を描いた第三話、仏道を禁欲的に極めようとする青年僧が彼を救った村娘に最終的に観音を見る第四話がすごくよかった。

美形の橋守りはなんとなく山岸涼子の描くところの厩戸王子を思い出させる。

この連作以外の三本も独特の雰囲気で、特に「海神の子」などは逆にいまの若いマンガ家では描けないだろう。
そして本書最後を飾る「夢見る指」が非常にぞっとして素晴らしかった。

あと本書は巻末の国文学者・田中貴子先生の解説が読ませる。
民俗学的なところがツボな人にはたまらんだろう。

総じて近藤作品の長編が持つ圧倒的なパワーのようなものは薄いのだが、その分この雰囲気をほろほろと味わうにはよい一冊かと思う。

贅沢を言うなら「逢魔が橋」の世界だけで丸まる一本読んでみたかったところ、そこだけがちと残念ではある。








※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

【レビュー】『螺子とランタン』桂明日香

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今週の週アスでハニカム休載だったので桂明日香成分補給ということでw

『螺子とランタン (角川コミックス・エース)』




これがこの著者のデビュー作とはしらなんだ。
以前読んだそこはぼくらの問題ですから とキャラクターそれぞれの要素が(配置は異なるが)似ているのが面白い。

両作に通じていえるのは、それぞれの登場人物が小さな女侯爵と貧民街上がりの家庭教師だろうが変態天才プログラマーと自爆型・被ストーカー女子高生だろうが(苦笑)、自分の持っている社会的属性と自分の内面のギャップに悩まされているという点だろう。

もっといえば、ちゃんと子供をやれないまま年齢だけ大人になってしまった男どもを”考える”ことより”感じる”ことで躍動するヒロインたちが解きほどく話でもあると思う。

もっともっと簡単に言えばリュック・ベンソンの『レオン』型の物語の変形バリエーションといってもいいか。

で、この人の作品のいいところは、そういった歪さなりコンプレックスなりをもった主人公やヒロインたち対となるキャラクターを得ることで、最終的に双方が、そのコンプレックスや悩みからゆっくりとほどかれてゆく回復と成長の物語であるというところだろう。

ある意味物語の王道だと思う。

その点、現在連載中のハニカムは掲載媒体と連載形式の特殊性からちょっとこのスタイルからは外れていて、逆に物語としてどう着地させるのかが楽しみになってきた。
(一番違うのは主人公がこれまでの作品のように根本的な部分でコンプレックスを持っていないところだろう)

加えて可愛らしい絵柄のわりにきわどい描写をやってもあまり下品にならないというのは非常に貴重だと思う。
ある意味総エロ肯定という下品な世の中にあって天然記念物といってもいい。
(最新作の『神話ポンチ』あたりからするとこれは言い過ぎかw)
これはご本人女性というところも大きいか。

既刊の単行本はあと何冊か出ているようなので、そのうち経済的な余裕ができたら読んでみようと思う(泣)。
そのうちこの人の長編とかも読んでみたいような気がする。








※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

【レビュー】本来胃が痛くなるぐらいで”ちょうど”なんだが―(『ウルフガイ 8巻』)

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平井和正の代表作、ウルフガイシリーズのコミック版最新刊。
原作でいうところの第一巻『狼の紋章』の終盤部分に入っている。

『ウルフガイ 8』 (ヤングチャンピオンコミックス)



表紙にあるように青鹿先生がエライ目にあわされてしまうシーケンスですな。

掲載誌をコンビニでチェックはしていてちょっと周りを気にしなければいけないような描写の連続ではあるんだけれども、通しで読むとちゃんとストーリーを損なわず、必然性を持って描かれているのでほっとした。

原作では影の薄い脇役・田所先生がちゃんと存在感出しているところもよい。

ただ一点、ここになって惜しいと思えるのがやっぱり犬神明と青鹿先生の精神的なつながりの部分の描写がまだ足りてなかったのかな、というところ。

これは実は原作でもそういうフシがなくはないんだが、原作での名シーンである、拉致された先生の小さなアパートに残されたカーディガンを見て犬神明の心が決まるところは残しておいてほしかった。

ただしその代わりといってはなんだがなんだが羽黒の凶悪さは原作の何倍もブーストアップしているのでそこはヨシ。

まあこういう暴行のシーンって昨今のマンガはしれっと載せてるが、本来こういう描写は読んでる読者の胃が痛くなるぐらいでちょうどなんだよね。

そういう意味ではほんとうの意味での暴力性、人の尊厳を破壊する、あざ笑うという意味ではまだベルセルクの13巻には遠く及ばない。
(この点、暴力性―という点では前々巻の千葉への暴行のほうがえげつなかった)

所詮フィクションだといってしまえばそれまでだが、暴力は暴力として徹底して描かないと。

でないとそれをファンタジーと解釈してしまうバカがまたぞろ沸いてくる。
ただ逆にいうと日本のこういうコミック文化はそういった暴力を本当の意味としての暴力として描けるところにまできているということではあると思う。

そして人間―ホモ・サピエンスという種のどうしようもない暴力性・暴虐性への告発がこのウルフガイシリーズのテーマのひとつでもある。

あと・・・2,3巻で『狼の紋章』のセクションは終了のはず。
以降、いよいよ本編。













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