各方面で評判になっていたので読んでみた。その評にたがわずすこぶる面白かった。
『ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)』
冒険者・ライオスたちの一行はダンジョンの深奥、ドラゴンと戦っていたがパーティは徐々に劣勢に追い込まれ、ライオスの妹のファリンはドラゴンに飲み込まれてしまう。ファリンの最期の魔法でダンジョンを脱出した一行だが脱落者が出てしまい、装備はダンジョンの中、おまけに腹は減る―しかし残ったエルフの魔法使いマルシル、鍵師のチルチャックたちとライオスは再びダンジョンに向かう。そして先立つものがすっからかんの一行の空腹を満たすのはライオス愛読の『迷宮グルメガイド』頼りとなるのだった・・・。
いわゆるRPGをやった方なら一度は想像したことがあるであろう「冒険の時ってどんなもん食ってんのかな」―ありふれたこの疑問だがそれを真っ正面からエンターテイメント作品として描いたのは本作が初めてなのかな?少なくともこれまで同類の作品を自分は目にしたことはなかった。
日本では皆がぱっと思い浮かべるであろうスタンダードなドラクエ型RPGの世界は、基本剣と魔法の世界がベースとなるが、本作もそういう世界観を作品のディティールとして踏襲している。そのうえで「食事」という人間の生活に欠かせないものを正面に持ってくる―面白くないはずがない。
まあしかし巷に良くあるグルメマンガのそれとは若干異なり、ある種「ゲテモノ食い」的な要素が必然的にあり、それがギャグにつながったうえでうまくこれまでのグルメマンガ的な見せ方も忘れていない。おまけにタイトルにあるようにその舞台となるダンジョンでの戦闘をはじめとする描写もしっかり描かれていて、一粒で二度も三度もおいしい―そんな感じの作品なのだ。
個人的には、ゴミと食事の描写をしっかり描ける作家というのは本物だという確信のようなものがあるので、本作品も名作・人気作になる可能性は大いにあるように思う。
絵柄が清潔感があってかっちりとしており、おまけに程よく描きこまれているのもいい。
著者はお名前からすると女性の方らしいのだが、どことなくとり・みき氏や唐沢なをき氏など―いわゆる「理数系ギャグ」と呼ばれる乾いた笑いの系譜を感じる。女性でこのスタイルはすこぶる珍しいと思う―これは新たな才能を期待せざるを得ない。
(理数系ギャグの特徴は、独特の”間の置き方”にあるのだが、本作ではそれが作品のテーマにばっちりあっていて素晴らしいのだ)
本巻では主人公たち3人のパーティに”迷宮グルメ”の先達であるドワーフのセンシが加わり、妹の救出―という名のグルメ街道まっしぐらだが、キャラも役割分担がはっきりしていて面白い。
個人的にはまわりの変人どもに振り回され、ゲテモノ食いの被害者となる魔法使いマルシルちゃんの表情が最高だw
ドラゴンに喰われた妹の救出―という設定があるので、ひとつの区切りまではそう長くはかからないとは思うが、それを終えてもどうとでも引っ張れそうな設定の良さ―これはほんと発想の勝利だな。
先月この第1巻が出たばかりなので、まだまだ先は長いと思うが、またひとつ読むのが楽しみな作品が増えた。また、こういうある種の”不自由さ”というのは、昔やりこんだ『LUNATIC DAWN Ⅱ』を思い出させて懐かしかった。
次巻以降が楽しみである。
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正