前々から読んで見たい本ではあったので、読んでみた。
オウム真理教事件の際の容疑者の洗脳解除の一件や、それ以外にもプログラミング言語の領域でも業績を残しているという、脳機能学者・苫米地氏による電通によるメディアコントロール寡占に対する警鐘を鳴らす一冊。
現在の電通とメディアとのズブズブの癒着という問題点、そして戦前の電通の前身から始まって敗戦前後のGHQによるWGIP(ウォーギルトフォメーションプログラム)などへの関与等、歴史的な背景も踏まえつつ、おもに独占企業―それも下手すると国家や国民の方向性すら左右しかねない、メディアにおいての寡占・その影響力について警鐘を鳴らしている一冊である。
書いてある内容・方向性は、正しいと思うし、ここで指摘されている問題点は正にその通りだと思う。
こういった点を意識しているかしていないかで、メディアに流れる情報のバイアスに関して、個人個人がどれだけ理解できるかの度合いは大きく変わってくるだろう。
繰り返すが、書かれている方向性としては首肯するし、圧倒的に正しい。
ただ、だからこそ、根拠となる具体性に欠けるレベルの推論がやや多すぎるのが、返す返すも惜しい。
もちろん、ことこの電通レベルの企業と、本書にあるような組織としての性格からすると、そういった推論を組み立てるための、根拠となる数字が出てきづらいのは重々承知だ。
(なにしろこのあたりの数値や統計が正確に出てくるのなら、いまの日本にはびこっている癒着談合の集合体である、マスメディア・コングロマリットは全てその正当性の根拠を失いかねない)
ただだからこそ、そこを突かないと、当て推量=陰謀論的な性格をもってしまい、糾弾書としての身奇麗さに欠け、相手に付け入る隙を与えてしまうだろう。
自分は著者の方を名前は存じ上げているが、どういう人物像かは詳しく知らない。
ただ、プロフィールなどをみると、ずば抜けて頭の回る人であるんだろうな、というのはなんとなく想像がつく。
特にコンピュータ言語である程度の業績を残している方らしいので、論理的な思考をされる方だろう、というのはわかる。
加えてあの個人的な大傑作『神様のパズル』の監修やってるなら無条件で信じたくなる(笑)。
まあ、そういうレベル人だからこそ、いわずにおれなかった一冊ということなんだろう。
ただ、逆に言うと、これぐらいのレベルの人をしても、ここまでしか踏み込んだことを書けない―その事実が実は本書のテーマを逆説的に浮き彫りにしているのかもしれない。