新日本人に訊け!/小林よしのり

標準

ずいぶん前に読了していたが、タイミング逃してたので今頃。

新日本人に訊け!


小林よしのり、という名前を聞いただけでアレルギーを起こす人や、氏の作品を取り上げるだけで”右翼”というレッテルをペタリと貼られかねないという、そういう物議をかもす人であるが、冷静に考えてみて、昨今の言論空間に氏の及ぼした建設的な影響というのは否定できないと思うし、その功績は認めるべきだろう。
(なによりあのオウム真理教とガチンコで一戦したというだけで、自分は素直に頭を垂れる)

もちろん、諸手をあげて賛成ということばかりでもなく、時にはとんちんかんでひどいことを書いたりもする。
(最近だと関東の乳幼児の母親がペットボトルの水を買い占めることをかなり悪意交じりで描いていた―母乳の代わりの粉ミルク等を使う際に必要なことをご存じなかったのだろう)

しかし、基本のスタンスとして是々非々、自説に執着するのではなく違うと思ったら、さっと詫びを入れてスタンスを変える、旧敵すら評価するべきときは評価し、そしてなによりプロのエンターテイメントの世界で一線を張ってきたという点で、個人的には信頼しうると考えている。
(頭でっかちだけの理想論者や主義者ではない、ということである)

昨今は扱うテーマが大きくなってきたせいか、そのエンターテイメント性が作品の中で薄くなり、マンガの手法では間に合わなくなってきた部分もあってか、時々活字の本も出している。

本書はそういった活字の一冊。

日本に近年帰化された、いわゆる”新日本人”の方々との対談集。
これは小林氏云々ではなく、企画そのものとして面白いので例え別著者でも買っていただろうと思う。

中国、韓国、チベット、アメリカ、台湾・・・とそれぞれもとの国籍が、日本と縁の深い国々ばかり。
それぞれの方が、なんらかの形で著述・メディアに露出されていることからもわかるが、結果的に政治的な問題を考えるための良い一冊となっている。

個人的に面白かったのは、韓国のご両名と、アメリカのトッテンさん。

韓国は最近の韓流ブームで取り上げられることが多いが、ここに書かれているようなことは良く知っておく必要があると思う。

良い悪いではなく、そういう文化・メンタリティが根底にある、そういう隣人と我々は付き合っていかなければならない、ということ。

元米国のトッテンさんは、本書では比較的自分の母国(というかその政治システムの一部)をぼろくそに言ってるのが面白い。そのコミカルな印象と異なり、良くも悪くも”世界帝国”としてのアメリカの暗部を、間接的に見せられたような気がした。

そして本書最後を〆るのは、元台湾の金美齢氏。

日本に帰化したことを小林氏が作中で非難していたこともあって、どうなるかと思ったが、その経緯も含めてある種”戦友の帰還”とでも言った雰囲気の対談となった。

真摯な者同士は、例え意見が分かれ袂をわかっても、互いへの敬意を払って再度顔を突き合わせ語らうことが出来る、といういい例だろう。

震災以前から、経済の凋落、出生数の減少・高齢化などで、先になにひとつ明るい展望の見えなさそうなこの国だが、それでも自らの意思で”希望”をもってこの国を選択するこれだけの方々がいる、ということは我々はもっと自信を持ってよいと思う。

ダメな部分もたくさんある、横並びの息苦しさもある。

それでもなお、日本という国は、いまだ世界でトップクラスの”幸福な国”である、ということが、本書にある人々の言葉でよくわかる。

”外”の世界を知らず、スケールの小さな”善意”を振り回すことになれている我々は得てして想像し難いが、もっと厳しく、もっと混沌とした日常が”あたりまえ”とされている国のほうがほとんどということだろう。

どっぷりと暮らすのでなく、ただ一瞬を通り過ぎることでしか、外の世界を見ない我々には、それは窺い知れないことのほうが多いのだろうが。


いい国なんですよ、日本て。

皆さんが思うよりも、ずっとずっと―。

コメントを残す