それでも日本人は「戦争」を選んだ

標準

途中までは、途中まではものすごくよかった。
それだけに後半がな~!?


それでも、日本人は「戦争」を選んだ


日清戦争から第二次世界大戦まで日本の戦争を考察した一冊。

授業形式をとり、実際に神奈川の栄光学園の生徒さんたちを相手に行った五日間の授業を元にしている模様。
いいな、こういう授業をうけられる生徒は心底うらやましい。

著者がきちっと歴史研究の最前線にいらっしゃる方で、そこを活かした、通常のとおりいっぺんな歴史解釈ではなく、専門的な普通はあまり目にすることのない史料を駆使して、これまでと違う視点から歴史に光を当てていく一冊。

この点すごく面白いし、本来歴史教育というものはこうあるべきだろう。
授業形式ということで生徒の質疑応答も交えているが、これも素晴らしい。
(ただこの生徒さんがたのレベル高杉www)

で、第一次大戦のあたりの解説まではすごくよかった。

―んだが、日中戦争、第二次世界大戦のあたりになるとちょっと文章の性質が変わってくる。



確かに本書一冊だけでその間の社会・経済・思想・外交といった複雑な要素がからむ開戦までの道のりを正確に記せというのは無茶な話だが、ここまでしっかり語られていたはずの「では日本はなぜそうせざるを得なかったのか」の説得力が後半になればなるほど欠け落ちてくるような気がする、なんかフォーカスが一部ぼやけてくるのだ。

もちろん一回一読しての感想なので自分が読み違えている部分もあるかと思う。
(しかし後半質疑応答の記載も少なくなり、著者の加藤先生の記述一辺倒になるのは事実)

そして最後のほうに日本人はドイツ人に比べて謝罪が甘い、その理由は前線での戦況をしっかり把握できず、引き上げの際の被害者意識を引きずってるからだ的な部分は―それが間違っているとはいわないが、本書の趣旨からすると瑣末なところではないか?そういった記述が目立つあたりにやはり唐突さと違和感を感じざるを得なかったのは正直なところ。

個人的に一番気になったのは日露戦争以後、なぜ陸軍が暴走して行き、それを誰もがとめることができなかったのか、ということ。

しかし結局それについて明確な答えは、本書にはなかったような気がする。

もちろん、本書にあるように当時の就業人口の46%が農民で、それにも関わらず世界的な不況・恐慌の中でそれらの層に対する政治的な救済が行われなかったこと―その代弁者として彼らを構成員として最も吸収していた、陸軍皇道派の勢力の高まりということもあるだろうとは思う。

しかしその不満や陸軍の権力欲だけで中国大陸へ拡大、拡大、また拡大の方針をとるものなのか?

当時、帝国主義というパワーゲームの中で常に隣接するロシアや欧米の大国に対する脅威、それに対するなんともいわれぬ不安感というのもあったとは思うが、やはりそのあたりのメンタリティが本書の後半の説明だけではわからんのだ。

まあそのあたりは自分で埋めていかなければならんのだろうとは思う。
個人的には日露戦争の被害・犠牲・出費の大きさが社会としての「傷」になったのかな、とも思ってみたり。
(だから引くに引き下がれなかったっちゅーか)

ただこういった点を除けばやはりいろいろとあたらしい発見のあった良書で、特に中国の懐のでかさというか、ある意味の施政者の人物のスケール違い(その覚悟といい、ある意味の冷酷さといい)は勉強になった。
ついつい日本の歴史書でそのあたり読むと当時の中国政権ぐだぐだのように書いてあるが、決して弱くない、っちゅーかむしろ強くてしたたかだったんだ、と本書からは読み取れる。

あと読んでて改めて気づいたのは、当時の帝国主義のプレイヤーたちの多くは途中までは王政・帝政だったのね。

そういう意味では一番おそく近代社会にデビューしたように見える日本だが、そういう意味ではいち早く近代的なシステムを載せた立憲君主制のプレイヤーでもあったんだな、という。

ほんでやっぱりそのときに思うのは天皇制というシステムの日本にもたらした利益というか。

自分は右翼でも単純な天皇陛下万歳の人でもないが、やっぱりこの天皇制というシステムはすごいと思う。
これがなかったら日本てもっとばらばらでえらいことになってたんじゃないか。


歴史に「たら」「れば」はない。

そして過ぎたことをいま現在の視点からあーだこーだ言うのは簡単だが、それでも当時の我々の先人は精一杯の努力はしたんだろう―そう思う謙虚さは持っていたいな。

改めてそう思った一冊。

明治以降の歴史について「なぜ?」を感じたことのある人は読んでおいて損のない一冊だと思う。
そしてやっぱり考えておくべきだと思う。

いまと当時は違うが―不況時の農村の不満が吸収されなかったときの構図がけっこういまの非正規雇用の問題とだぶって見えるぞ、ただ吸収する政治的な存在がないというだけで―。

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