三十代以上の人は必読

標準

TVや新聞でニュースを追うことをしなくなった。
なぜならそこで語られている多くが”事実”ではなく”物語”になってしまっているから。

物語にはかならず語り手の”目線”がある。
事実それが”物語”であるならそれでいい―だがニュースは物語ではないのだ。

それでは困る―。



日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)



常々日本のいろんな問題を考えるときに思っていた。客観的な―ベースとなる数字や基準があまりにも曖昧だ、と。

そして事実としての数字ではなく”情緒”や”気分”で語られすぎている、と。

残念ながら自分には本書に書かれている”事実”や”数字”を厳密に検証する能力はない。
ただし、本書のスタンスは<シンプル・ロジカル>に考えるだ。

そういう意味で、ようやく自分の欲していたスタンスで語ってくれる本が―読んでみてそう思った。

三十代以上の人は是非読んでおくべき一冊だと思う。



最初にお断りしておくが、この高橋洋一氏は小泉政権での竹中大臣の政策ブレーンであった方である。

くわえて(冤罪の噂もあるが)窃盗でつい最近書類送検された人でもある
(あまりにもタイミングよすぎると思うが)

そしてネットにあがっている動画などを見るとかなりアクの強そうな方でもある。


それでも―。


ここに書いてある説明はいちいち納得だった。
前書きにある八ツ場ダムの件でも


「情緒的な報道ばかりでコストベネフィットの分析の視点がない」


とばっさり切っている。

投下するコスト(お金)に対しそれに見合ったベネフィット(便益)があるのか―その視点でまったく語られていない、と。

コスト(投入金額)に対してベネフィット(便益)が上回るなら中止すべきではないし、期待できるベネフィットに対してコストがかかりすぎるなら中止するのは当然だ、と。

すごくあたりまえの話だが、そういったスタンスでの報道をみたという印象は皆さんおありだろうか?

本書は基本そういったスタンスで終始貫かれている。

「日本の大問題が」とタイトルにあるように、この先課題とされる(おもに経済的な)問題をいくつもとりあげてそのコスト・ベネフィットの視点で解説してある。

・子供手当ては実は「予算配分の組み換え」の問題。なのにイデオロギーを優先して馬鹿なことになっている。

・周波数オークションという世界的には常識的な「財源」が手付かずになっている。
 (それは電波利権の一番の恩恵を受けているTVマスコミが既得権を守るために報道しないため*1)

・デフレで得するのは公務員と年金生活者のみ―新卒と非正規雇用が調整弁としてもろ煽りを喰らう。

・そのデフレ原因=GDP需給ギャップは日銀の無策―責任問題にしたくない保身―のため発生しているということ。

・そのデフレのため円高が続き、景気回復の主原動力であった輸出企業の利益を大きく毀損している。

・郵貯は民営化しないと逆につぶれる―潰さないなら毎年一兆円づつほど税金の投入が必要になること。

・国の財政状態を”雰囲気”で見てはいけない、計数化できるプライマリーバランスで見ること。
 (国債依存度などという世界的には通用しない概念を作って言葉遊びをするな)

・債務償還費という国債借り換えのためだけの予算が国債でまかなわれている不思議。
(それが国債発行高の1/3を占めている(!?) )

・「破綻」を語るなら「破綻」を定義せよ。

・社会保障番号制度の必要性。

・法人税は実は二重取りである、それによって利益を享受していた個人資産の把握にあわせて下げるべき。

・寄付控除の可能性―受益者側が使い道を決めることが役所・役人たちの支配・仕切りへのブレークスルーとなり得る。

・ニア・イズザベター―地方分権の意味とその財源としての消費税、それが中央官庁の無駄遣いを防ぐことにもなる。



ざっとこんなところかと思う。いま二回目読み直し中だが、なかなか全部をきちっと把握するのはむづかしい。

しかし、かなりの疑問に対して霧が晴れてきたように思うし、この国の先行きも(楽観視はできないものの)まだ道筋はいくつも残されている、そう思った。

特に省庁・日銀といった本来責任を担うべきところの無策の酷さっぷり。

皮肉なことにその酷さがほんとうに酷すぎるので、逆にそこを何とかできればかなり改善する人為的なものなんだな、というのを見て取れたのはすごく良かった。

実はもう一冊同時に高橋氏の著書読了済みなんだが、それと併せてほんとうにその酷さは目に余る。

追ってこちらもエントリ上げる予定だが(本書よりさらにハードル高い内容だったのだ)、ノーベル経済学賞受賞のクルーグマン教授が「日銀が重い腰をあげないというなら、(その責任者たる総裁は)銃殺に処すべきです」といったのも深くうなずける。


そう、じつはその正体は

”日銀不況”

そういってもいいんじゃないか。



読み終わった後、正直な感想は実はそれだ。





(*1)
電波利用料653億円のうち、既存の大メディアであるテレビ局の負担は僅か38億円。NTTも基本反対の模様。
そらソフトバンク孫氏の言うことが本当で800Mhz帯問題がつながりにくさの原因なら、オークションやるとiPhoneつながりまくってえらいことになるわなあ(爆笑)。

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