【レビュー】『ファイブスター物語 14巻』永野護

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なんと・・・連載中断せずに単行本だしちゃったよ、永野センセ。なにか天変地異でもおこるのでは・・・(笑)。

前巻の大変更を受けてからはじめての大規模GTM戦エピソードである「ツラック隊」のエピソードがほぼまるまる一巻を占める。加えてこれまでによくあった巻中扉絵での設定紹介的なものが一切ないため一つの物語として非常に一貫性が高い「読ませる」編集。映画GTM以降のさまざまな改変がここにきてようやくある種の”型”として出来上がったように感じる。

ファイブスター物語 14 (ニュータイプ100%コミックス)
永野 護
KADOKAWA (2018-02-10)
売り上げランキング: 8

ミノグシア北部を劣勢の戦力でぎりぎり支えていたツラック隊。そこへ現れたGTMスライダーソープとファナ。支隊長ナルミは成り行きで彼らを受け入れるが、次々と稼働不能だったGTMが整備されてゆき、隊はなんとか一息をつく。しかし根本的な劣勢は変わらないことを知っていたソープはナルミにある提案をする。結果、ツラック隊の守るベラ国の戦線は一気に注目を集めることとなり、各勢力の思惑が交差する戦場に。そこへミースからの回状をもったツバンツヒが現れる。ツラック隊を足掛かりにアマテラスへ接近するすべを探ろうとするツバンツヒだが、あることをきっかけにこの戦場に真摯に向かいあうこととなる。またそんな彼らの元へ騎士を廃業していたハレーが不審者として連行されてくる。大切なパートナーであったハルペルを失い、自分はもう戦えないというハレーにナルミは激怒する。「騎士ならGTMで戦うのよ!!」。そんな彼にハルペルの面影がささやく・・・。こうしてようやく持ち直してきたベラの戦場だったが、突然国境に集結する枢軸軍の大規模なGTM集団。友邦国のGTMを合わせても69騎しかないツラック隊に4倍近くのGTMが襲い掛かる。そこには”天位殺し”と呼ばれるシュバイサー・ドラクーンの姿もあった。ファティマたちの強力な情報妨害戦<XROSS JAMMER>のなか、大規模なGTM戦が始まった……。


いやー久々の、というかGTMになってからは初の大規模集団戦エピソードとなりますか。基本的にそのクライマックスであるGTM戦へもっていくまでの各エピソードもいいし、なにより細かなエピソードがぶつ切りとしてではなく、大きなストーリの中ひとつとして調和して存在しているのが今巻最大のみどころかも。これまで作品の性格上、どうしても設定出すためのエピソードの小出し的な構成になることが多かったが、今回はそういった小さなエピソードもちゃんとクライマックスへの布石となって存在しているのがいい。(というかオーソドックスなコミック作品ならそちらのほうが普通なのだが:苦笑)

今巻の狂言回し・・・というか読者側の視線の代弁者となるのはツバンツヒさんですね。彼女の視点で物語がほぼ進んでいくような感じなので、その点もいい。そしてその結果の巻末エピソードの哀れな姿が、うははは(笑)。

で、初の大規模GTM戦だが基本的には読みごたえはあった。戦術・戦略描写もさすが。ただフィルモアVSメヨーヨの時でも思ったんだが、意外とGTM同士の詳細な格闘戦の描写はあるようでないのよな(もちろんクライマックスでの1on1ではちゃんとあるんだが)。なのでガットブロウやアイドラフライヤーといった装備でGTMがどう破壊される、ダメージ・損傷を受けるのかという描写-そこまでの駆け引き―は意外と見えてこない。ただし前述のようにシナリオの盛り上げ方がうまいことと、非常に演出力が高い方なのでちゃんと読みごたえはある。もちろん雑魚戦まで丁寧に描いていたらこんなピッチで刊行できないのはわかってはいるんだが、一度このあたりはきちっと描いておいてほしいな、とは思う。なにせ3159始まっちゃったらそういった描写はありえないはずなので(笑)。そこに至るまでにぜひ一度!

そのGTMだが、今回は枢軸側が数か国の騎士団で構成されているため多種のGTMが登場しているが、巻頭のカラーシートのデザインはさすが素晴らしかった。ただ連載の時はこんなにきれいな色彩というのは一切わからなかったので、デザイン的に判別しづらかったのも事実。しかしこのカラーの設定シートが本来の意味での「正解」かと思うので、以前書いたような「似たようなシルエットばかり」というのはずいぶん解消されたと感じる。

そして以前作品集の「LitterPict」についての記事を書いたときに「HL1、これはアカンやろ」と書いた―けっきょく実際に動いてみるまで分からん、一応判断保留と。で実際に動いてみてもあまりこの印象は変わらんかった。なので「HL1、これはアカンやろ」という印象はあながち間違いではなかった模様、残念!ただこのあたりはミラージュGTMのけっこうな数が設定的に「基本ツインエンジン」→「基本シングルエンジン」(ツインはMGPとZAP、J型、F2のような特殊騎のみ)へとデチューンされたのと同じく、コーラスの「普通の」GTMとして設定的に「格下げ」されたのかもな。この推測が本当なら、それはある種の敗北といってもいいかとも思うんだが「強さのインフレ」を回避するためにヒエラルキーを整理したともとれるか・・・。しかしコマ外の吹き出しで6代目とか書いてもあるし・・・。
(実はこのあたり主役中の主役騎・マグナパレスにも言えることで―今月号のNT誌の表紙になっているんだが、これ頭部のデザイン朱塔玉座のデザインと同じよな?まあMGPの場合は数段階の変形形態を持つらしいとのことなので、これはチラ見せバージョンということと思うが・・・)

まあなんにせよこのあたりのGTMデザインの今後のスタンダードラインの可否というのは、予告されている次の作品集<XROSS JAMMER>まで持ち越しという感じだろうか。ただ今回巻頭のハロガロやコブラハーブ、ボイスオーバーGA2などを見ると「こちらがロートルファンであるが故の拗(こじ)らせ」で終わってくれそうな気はする。

そしてそんなGTMに対する不透明感に反して、キャラクター側の設定シートは「センセ、どうしたんすか!」といいたくなるぐらい華やかでかわいらしい、ハイクオリティのシートばかり。この傾向は「LitterPict」でも見えていたが、これに関しては大歓迎!ミラージュファティマのクロームというか銀・シルバー系のエフェクトがやや過多に映らないでもないが、それ込みでもそれぞれのシルエットが素晴らしいと思う。またほかのキャラクターでは大胆なフリル的なものも導入されていてこのあたりはさすが。こういう服飾周りはもう手放しで拍手拍手でございますよ!

とまあ例によっていろいろ書いたが、今巻の最大の見どころはそういったデザイン的な面よりも、そのストーリーの奔流を堪能できるところにあると思う。GTMのアニメーション映画化作業によって、案外ストーリーテリングに対する意識の変化があったのかもしれない、そんな感じがする。今回NT誌での連載の手を止めることなく単行本の作業も並行して行ったというのも、そういういい意味での「見切り」のようなものがより先鋭化したということなのかも。かといって相変わらず作品集のほうでは細かな情報はけっこうな密度でちゃんと出してきてる。というかただ単に本編がより本編らしく―というか3巻ぐらいまでのあの感じに回帰しているのかもね―その質はもちろん圧倒的に向上したうえで。

なにはともあれこういうノンストップでのストーリーテリング、単行本の発行は大歓迎!ぜひこのピッチで淡々と続けていただきたいところ。ただお歳もお歳ではあるので、体調崩すぐらいなら適度な休載も挟んでいただいても文句は申しません、ハイ!(苦笑)。

連載のほうもヨーン君まわりに現れる関係者が何気に大物ばかりでちょっとびっくりするエピソードが続いているのだが、まあそういう「期待を裏切り続けてくれる」のがこのFSSという作品。なのでまだまだいける!そういうことでしょう。

ということで今回は素直に楽しくエピソードを堪能させていただきました。自分みたいに拗らせてない旧読者のみなさまが復帰されるにはいい巻かと思うので、気になられた方はぜひこの機会に作中のハレーにならって戦線へ復帰されてはいかが?(笑)。

ファイブスター物語 14 (ニュータイプ100%コミックス)
永野 護
KADOKAWA (2018-02-10)
売り上げランキング: 8
ニュータイプ 2018年3月号
KADOKAWA (2018-02-10)









※2022/06 標題の表記を統一

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