だいぶまえに映画館内の予告上映で初めて見てからずっと見たかった一本。その後本国アメリカで公開後の評価が迷走+国内公開後もあまり声高に評判が聞こえてこなかったのでどうなったかと思ってたが、微妙な出来な部分はあることを認めつつも自分的にはけっこう好きなタイプの一本だった。
実はこの評価の混乱というのも、YOUTUBEなどで公開されている予告編の変遷を見ていればなんとなくわかる。徹底して明るい感じの本国版のトレーラーに対し日本国内版のそれはボヘミアンラプソディ・・・。要はこのあたり「どっちなの!?」という素朴な疑問がそのまま作品の評価の混乱に結びついていたのかと思う。
自分も事前情報で想像していたのはこの極悪人の犯罪者集団による特殊部隊はそのメンバーのみぶっ飛んだ感じで、従事するミッションはもっと普通の―例えば中東のテロとか麻薬マフィアとかの―敵になるかと思ってた。悪には悪をぶつける的な感じで。
ただよく考えてみるとこの作品のベースになってるのはDCコミックス=アメコミなわけで、敵も別の意味でぶっ飛んだ系でした(笑)。もっとぶっちゃけて言ってしまうとこの作品はバットマンvsスーパーマンの作品世界の地続きらしい、と。そらリアル路線じゃないのは自明も自明ですわな、トホホ。
まあそういうこちらの早とちりによる誤算はさておき、単純に映画としてまずいところを先にあげておくと、まずシナリオがあまり良くない。これはひとえに悪役チームの面々がちょー個性的が故にその紹介に時間を割かざるを得なかったということだろうが、ここは思い切ってばっさり省いてもよかったと思う。結果的にデッドショット(ウィルスミス)とハーレイクイン(マーゴットロビー)の二人がメインのような感じで落ち着くのだが、こういう悪役側自身からの視点ではなく、彼らを近くから見る別のキャラの視点からシナリオを起こしたほうがストーリー的にはすっきりしてたかもしれない。そういう無駄な冗長さが顕著に出ているのが冒頭からスーサイドスクワッドが結成されるまで―その尺がやはり長すぎると思う。このあたりは刈り込んでしかるべきだっただろう。
次にけっこうあちこちでも言及されているが本作ヒロインのハーレークインの彼氏であり、彼女が悪の道へ堕ちる原因ともなったゴッサムの巨悪・ジョーカー(ジャレッド・レトー)、彼の立ち位置がシナリオ的に非常に不鮮明なこと。これはジャレッド・レトーの演技が熱演で素晴らしかっただけに肩透かしを食らう感じといえばよいか。彼はハーレイクインを描くには必須だったとはいえ、実は本作の大まかなストーリーラインを考えると必ずしも出演させる必要はなかったかもしれない―回想シーンなどだけでの登場にとどめておいたほうがむしろインパクトあっただろう。事実その存在感に比して登場時間やたらと少ない。編集でかなりカットされたとも聞いたが、にもかかわらずこのバージョンのシナリオでは根幹に関わらざるを得ない描写だったのでこういう唐突さにつながってしまっているんだろう。
最後にやはり悪役部隊メンバーたち全体の立ち位置が中途半端。悪役・・・というより異能者故に虐げられて犯罪に手を染めた的なところが強調されているシナリオで(観客の感情移入ということを考えると順当ではあるのだが)ややベタな感じ。これを傍観者視点からの物語にして悪役たちをもっとぶっ飛んだ感じで描いていればある種のコミカルでありつつもピカレスクロマン的な作風にもなり得てたかもしれないので、それを考えると少し惜しい。
で、こういった不満はあれど見終わった後はけっこう満足感あったというか、割引デーとかならもう一度観てもいいかなと思える感じだった―なぜか?
いやもうそれは各キャラクターの濃さに加え、細々としたところのベタな描写が自分の好みだったからかと思う。基本的に好きなんすよ、こういうアホなお祭り映画w
そしてこの映画を語るときに誰もがまず最初に言及するであろうハーレイクイン、このキャラクターを世に出しただけで本作の意味はあったと思える―それぐらい近年まれなキャラの立ち、素晴らしすぎる!演じるマーゴットロビーが最近逆にあまり見かけないバタ臭い感じの正統派ブロンド美女というのもいいのかもしれない。
つづいておそらく本作の主役ポジションのデッドショット=ウィルスミス。彼の出演している映画を自分はなぜかあまり見たことがないんだが、人柄の良さがこの役にもピッタリな感じ。特に娘思いのお父ちゃんというのははまり役だろう。で、彼の特殊能力は射撃の腕なんだが、ここの見せ方が非常に生理的な心地よさがあった。射撃のシーンのリズム感の良さ、武器を試射する際のとっかえひっかえの見せ方のうまさなど―ベタではあるんだがそのベタさがうまくはまっているというかな。射撃シーンに関してはこのデッドショットだけに限らず全編に渡って満足感あった。ハーレイのリボルバーの最後の弾丸「LOVE」もニヤッとするよね。
本作に総じて言えるのはそういう細かなシーンでのディティールや描写の良さ。なんともうれしいこの手の映画では珍しい日本人キャスト・福原かれん演じるカタナのシーンもそう。ただ(そういう指示を受けての可能性はあるのだが)普通のセリフ(日本語)のシーンはちょっとオーバーな感じであちゃー!?ではあったが、彼女アメリカ生まれなんですね-なら不可抗力か。その殺陣やキャラクターとしての存在感は素晴らしかったので余計に福原さんの今後には期待する、頑張ってほしい。
要はこういったキャラクターそのものを楽しむ分には非常によくできた映画だと思う。ただし映画本編のストーリーにあまり期待してはいけない、そういうところだろうか。ぶっちゃけ映画のストーリーだけでいうなら80年代のゴーストバスターズと大して変わらないレベル。そこにこういった濃いキャラクターをまぶしてあるので当然テイストは今風でその意味では決してレイドバックな陳腐さはないんだが、骨子のレベルとしてはその程度というのは頭に入れておいたほうがいい。
本作はこういう評価にもかかわらず続編やハーレイクイン役のマーゴットロビー自体が企画を出したというスピンオフが動き出しているようだが、それはけっこう正解のような気がする。今回はキャラが多くてその描写をせんがためにストーリーラインが混乱したが、もう前提は共有されている=以降は個別のキャラ描写に注力できるワケで、そのうえで本作の濃いキャラたちが爽快に暴れる姿というのをちゃんと見てみたい。
評価の錯綜している本作だが、そういう種をまいたということだけでも決してダメな映画ではなく、もっと成功し得たかもしれない佳作、そういったレベルで評価しておくのが妥当ではないだろうか。
いやーしかしハーレイちゃんのキャラはほんといいキャラですわ、近年のハリウッド映画の中でも出色じゃない、これ?
※オフィシャルではないようだがアブリル姉さんの『BADGIRL』をつかったMADのようだ。かっちょよかったので貼っておく。ちなみに作曲は音楽業界のスーパー・ヴィラン、マンソン先生の模様w