現代のあらゆるジャンルで見られる”退廃した近未来社会”的なビジュアル―そのスタンダードなイメージを生み出したといってもいい前作『ブレードランナー』の正統続編。ならこれは観にいかずばなるまい、ということで先日見に行ってきた。
いわゆる世界観が本筋のストーリーよりも重要といえる作品なので、その面では非常に奮闘していたと思う。そしてストーリも前作を踏まえて+前作主役のハリソン・フォード出演ということを考えるのならベストに近い脚本だったかと思うが、残念ながらその前作との関連性に足もとをからめとられて非常に閉塞感の漂う物語となってしまっていた。観客が想像力の翼を自由に広げられないというか。
美術周りが非常に素晴らしかっただけにそこが非常に惜しい一本だった。
前作の作品世界から約30年後の時代を舞台にしているが、前作よりもよりレプリカント(人造人間)そのものにフォーカスが当たった作品となっている。というかある意味作中の登場人物で重要人物はほとんど「人間」相当のキャラクターいなかったな、改めて考えてみると。そういうところも作品の閉塞感を感じさせる理由となっていたのかもしれない。
そしてレプリカントという存在が主役となっていることからも分かるように、ある意味「なにをもって生命とするか」的なテーマが据えられた作品であった。このことは作中レプリカント以上に存在感のあったバーチャルキャラクターのジョイ(アナ・デ・アルマス)の存在からも見て取れる。彼女の描写もSF界隈では非常に古典的なピグマリオン症候群の物語の変形なんだが、レプリカントという存在がメインの本作では一回りぐにょん、とひっくり返って非常にシュールな感じとなっている。(そのシュールさはなんとなく原作の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を思い起こさせる)
で、ネタバレをせずに書くと、そういう人に作られた存在が自我を得、更には”種”として勃興しうるのか―生命とか自我とは何かというところを問えるはずの物語にはなっていた―設定的には。
しかしそこを前作を尊重しすぎて、ハリソン・フォードを出演させるという決定をしてしまったところから、本来の壮大なテーマ性から非常に狭い身内の物語へと落ちていってしまっている。そう、すごく、すごおおおおおおくもったいない感じになっちゃってるのよ(泣)。
ハリソン・フォード演じるデッカードは前作でいろんな意味で特別なレプリカント―レイチェルと姿を消した。彼自身にもある疑惑を残して―そう、そこはそのまま霧の中に残しておいたほうが、作品としての広がりは絶対にあったと思う。
このドゥニ・ヴィルヌーブ監督は、非常に律義で誠実な感じを受ける方なので、そこも律義に答えを出しちゃった感じなのであろうかなあ。結果、美術とか世界観は死ぬほど頑張っているのに、物語としてのカタルシスは薄い―というか繰り返しになるが”広がり”が見えてこず、非常に閉塞感のある世界の中で物語が完結してしまうのだ。
ただ、そういった前作との関連性を考えずに単品としてみるのなら、ラストの雪の中のシーンとかはリリカルでよいし、やや尺が長すぎるということを除けば佳作以上の良作といってよいとは思う。しかし前作に魅了された者の一人としては、やはりそこから比べるといささかの物足りなさを感じてしまうのだ(ベストを尽くしたであろう制作陣に酷なのは承知なのだが)。
また本作は本編以外にも前作との空白期間を埋めるという体裁で3本のショートフィルムが公開されている。
以下それぞれ貼っておくが、前作と同じ雰囲気を持ち、それ故にいちばんワクワク感があるのは、唯一アニメのスタイルで制作されている『BLACKOUT2022』。これが個人的には一番良かった。女レプリカント・トリクシー役の青葉市子のかすれ声もいい。ただこれはこちらがおっさんであるが故の、ある意味レイドバックした”古い”世界観ならではの安心感も大きいのかもしれない。
あと本編に関して「ああ、これが時代の違いなのかもなあ」と思ったのは主役のライアン・ゴズリング演じる「K」まわりの描写。いちおう特捜官であるのでハードボイルドな立ち回り描写のため表立ってはそういう印象は受けないが、実は非常にその人物描写がいわゆるオタク的というかナード的というか、非常に閉じこもったキャラクター設定なのだな。
加えてそこに上述したジョイという存在が色濃く絡んでくるわけで。ちなみにこのジョイというキャラクターは我が国が誇るバーチャルアイドル、初音ミクさんでもよかったような気がする(笑)。ある意味その存在は同系統のそれだと思うし、なによりジョイの正体って、近々発売されるというGATEBOXそのものですやん、という。
実はそういった細かな描写の部分が今この2017年まわりからあまり跳躍できていないというかほぼ同じレベルにとどまっていたことも、この作品の閉塞感の理由の一つかもしれない。
ただ繰り返しになるが美術とか世界観とか物語のテーマ性は正統続編にふさわしい質量をもっていたので、できればそれを活かした新たな物語を見てみたいものである。本作が世に出たことでそのハードルも若干下がったことであろうし・・・。
(ただそれで行くと安い続編濫発にもなりかねんのでそこは諸刃の剣か)
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