まあこれだけ話題になっていると見とかざるを得んか、ということで先日見に行ってきた。
新海監督は独特のスタイルがあってその点は評価している監督さんなんだが、いい悪いではなく自分の好みからすると若干ウェットすぎる印象があって、その実質デビュー作である『ほしのこえ』以降はチラ見する程度に。
しかし興行収入100億の作品、ということであればなぜそういう流れになったのかは気になるところなので久々にちゃんと見ておこうかと。
で、結論を単刀直入に言うと―自分はあまりピンとこなかった。
決して悪い映画でないし、フィルムとしてのクオリティは高いと思うし劇場では横に座っていたカップル連れのお姉さん最後泣いてたけど、興行収入100億超と言うのはちょっと信じがたいな、という印象。これ、実は監督ご自身もそう思ってらっしゃるフシあるんじゃないかな(あくまで個人的な印象)。
映像は例によって超美麗だし神社周りがフックになってるとか電車での旅的なシーンとかあるし、ある種自分にとっても好みの指向性は揃い役満にも関わらず、ほぼ全編自分的にはあまり琴線に触れてくるところがなかった。これは自分が男でおっさんだからというのもあると思うが、やはりストーリーラインがあまりうまく機能していない部分もあるように思う。ちょっとうまく説明するのがむつかしいのだが、要は本作の中には小さなストーリラインというのがいくつもあって、それぞれ単独だけをとりあげるのなら特に破たんしているわけでもなく―むしろアニメーションとしてのすばらしさの部分で非常に躍動感やリアルな生活感もあったりする(コミカルなシーンも良い)。ただその個別のストーリーラインが最後の大きな物語としてのストーリーライン=本筋へと実はうまく収斂されて行かないようにみえる。彗星のもたらす災厄というところへ個別のエピソードのベクトルがうまくリンクしているようでしていない、とでも言えばよいか。
で、当日鑑賞後に映画館のロビーでメモ代わりに連ツイしてて、はた、と気づいたのが
「あ、そうか、実は彗星はこの物語の本筋のように見えるけどそうじゃなくて、ただのでっかくてきらびやかな装飾なのか?」
ということ。そう、実はあれビジュアル的にスゲー、キレーという意外に実はあまり本筋に関係ない。主人公たち若い二人が破局を回避しようと奔走するが、実はその面でおそらくこの映画のコアターゲットとなったお客さん(おそらく若い女性のお客さん)は感動してない。彼女たちにとってそれはいわばちょっとしたアクセントや薬味でしかなくて、要は若い二人がやきもきしたりすれ違ったり、実はお互い運命の人だったと確認したりという、そういうあくまでも心情的な小さな描写-それも甘口でどっぷりと砂糖を盛られたそれ―がそういう客層にどストライクだったのではないか?だとするとおっさんの自分にあまりピンとくるところがないのも道理だ。こちらは当然おっさんなので彗星とそのもたらす影響の部分が本筋かとおもってみてたらそら「あれ」となりますわな(苦笑)。
事実、実はこの話の核心の部分は別に彗星じゃなくていいわけ。若い二人がすれ違って、なんとなく運命感じちゃうシチュエーションであればいい―そうこんな大掛かりな舞台装置である必要は―少なくともこのシナリオからはその必然性は―薄い。ただ描きたかったんだろうな、きれいな夜空を埋め尽くす大きなすい星の絵面を(笑)。
なのでそういった認識で思い返してみると、またこの作品は違って見えてくる。そう例によって日常生活の中のカップルのすれ違いだったり葛藤だったりを超絶美麗な美術で見せるいつもの新海作品だ。
(ただ明るいエンディングというのは大きかったかもしれない)
そう認識しなおせば特に悪い作品でもないし、例によって美術はきれいだし、とくに観にいって損したという気にはならない。
ただこの映画が興行収入100億円を越える映画か、と聞かれるとそこは正直それにみあった作品ではない、とは言わざるを得ないだろう。よく言われるようにライトユーザーが観にいける、スタジオジブリの抜けた穴を埋める候補として、非常にタイミングよく内容的にも受けやすい作品として本作があった、というところが真相ではなかろうか。それは「運」がよかったということもできると思うが、当然、運も実力のうちである。
で、ひとつ思うのはこの興行収入100億越え、というのはカップル客―要はデートムービーとして非常に受けやすい要素がそろっていた、という面が大きかったのではないか。オタク向きのアニメ映画はオタクが一人で観にいくが、デートムービーは彼女に連れられて男性も観にいく、あるいは男の子が気になる女の子を誘って見に行く―よって当然興収倍増ですわな。ただその連れられて観にいった方が果たして相手が思うほど観たかったか・感動したか、というところはすこし聞いてみたいとは思うのだが(苦笑)。
<余談>
本作の主題歌ほか歌モノはRADWIMPSが担当しているそうだが、どこかのスレッドでRADの野田氏作曲だからかAimer嬢の『蝶々結び』のほうが内容的にしっくりくるような気がする、という書き込みをみたが、たしかに言われてみれば―なにせキーアイテムの一つが組み紐だったわけだし。エンディングで流れたらいい感じかもしれないと思う反面、ちょっと主旋律のマイナーコード感が強いような気がしてこの明るいエンディングの映画とはまた違った映画になっていたかも。まあそのうちDVDとか出たらどこかの誰かがきっとMAD動画作ってくれるような気がする(笑)。
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-27)
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この作品について思ったこと。
・男と女が入れ替わる
・タイムトリップ
・何者でもなかった自分が大勢の命を救う
・運命の相手と出会う
中二病の妄想まんまやんw