萩尾望都SF原画展~宇宙にあそび、異世界にはばたく

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劇団イヌカレーの『床下展』を見た同日に、吉祥寺は武蔵野市立吉祥寺美術館にて。
こういう駅近な場所にこういうスペースがあるとは知らなかったが、これほんとに入場料100円でいいのか!?

『萩尾望都 SFアートワークス』



日本の少女マンガ史・・・というより日本のマンガ作品の質の底上げに大きく貢献した大家・萩尾望都のSF作品を中心とした原画・イラスト展。その長いキャリアにおいてSF作品は重要なウェイトを占めるため、著名な作品の貴重な原画・カラーイラスト等をいちどにみることのできる必見の企画展示。

公式HP:http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/exhibitioninfo/index.html
・会期:2016年4月9日(土)~5月29日(日)
・会期中の休館日:4月27日(水)、5月25日(水)
・主催:武蔵野市立吉祥寺美術館  協力:河出書房新社


会場は吉祥寺駅から商店街のアーケードの途中から左に曲がって少し行ったショッピングビルの7階。こういうところに美術館あったのね。
受付で入場料を払うと同時に、荷物を返却式のコインロッカーに預けられる旨案内してもらう。平日午後ではあったが、吉祥寺というにぎやかな街なので客の入りも程々あった。
展示はそのキャリアにそってその時代その時代のSFテーマの作品を取り上げる形で配置されている。自分が一番熱心に読んだのは小学館から出ていた第二期作品集のころだが、それ以前からもSFテイストの作品がけっこうあることに改めて気づかされる。このあたりはのちの『ウは宇宙船のウ』のブラッドベリ原作のテイストと似たジュブナイルテイストの作品がほとんどだが、何度もアニメ化もされている『11人いる!』あたりからより本格的なSF作品の執筆に入られた感じだろうか。

『ウは宇宙船のウ (小学館文庫)』



『alt=”11人いる! (小学館文庫)』




それは光瀬龍原作の理不尽な絶対者に反逆する可憐な阿修羅王を主人公とした『百億の昼と千億の夜』、火星に恋した少女レッド星と自らの能力とともに感情すらも封じ込めていた青年エルグとの悲恋を描いた『スターレッド』のあたりからより一層ブーストされる。(この2作品も第二期作品集に含まれる)
またSFといえば、もう少女マンガがどうのというレベルを越えた、世界線の崩壊を食い止めるべく暗躍する謎の美少女・ラグトーリンが魅力的な本格的なSF作品『銀の三角』なども忘れてはいけない。(事実本作の掲載誌は当時のSF専門誌の総本山である『SFマガジン』だったはず)

『百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫JA) 』



『スター・レッド (小学館文庫)』



『銀の三角』



そして個人的には一番好きな第二期作品集では最終巻にあたる17巻『A-A’』の一角獣種の物語や、SFを題材にとりつつもある意味萩を作品としては逆にレアな王道の少女マンガともいえる『モザイク・ラセン』等もあり「ああ!?これこれ」「うおー!?あの作品の原画の線はこんなに細いのかー!?」とか声には出さずも、心の中では叫びっぱなしでしたよ!?(苦笑)。

『モザイク・ラセン (秋田文庫)』



『A-A’ (小学館文庫)』



あと今回直接みて大正解だったのはそのカラーイラスト。
実は萩尾作品のカラーイラストって、単行本などでみるとどうも色味が淡い感じでメリハリがないように見えたり、色味がなにか失調しているように感じる時があって、あまりこれまで引き込まれることが少なかった。

しかしこれが大間違いですよ!?
これ、原画で表現されている色やトーン、その中間色調や発色が繊細過ぎて印刷では出ないんだわ!?これはほんとに直接光に当たった原画の発色をこの目で見れてほんとうによかった。特に圧巻だったのは前述大好きな第二期17巻『A-A’』内の「4/4(カトルカース)」その淡いイラストのなんと美しいことか・・・・・。まさにあの作品内の切なく幼い恋に翻弄された若い恋人たちの雰囲気そのもののような繊細な色づかい。そして一番すごいと思ったのは同じく同巻収録の「X+Y(前編)」の見開きでのイラスト。これはおそらくカラーインクでの明瞭な差し込む光とエアブラシでの光彩のコントラストが原画だとよりはっきり浮きあがって印刷ではこの迫力は収録できないんだ・・・・・と改めて実感。もうこの美麗さにはため息ですよ。

ほかにも近未来、男だけしか生まれなくなった地球の再生を描く『マージナル』、その単行本用のカラーイラストも美しかった―特にその鮮やかな青が。以降は比較的最近になる『バルバラ異界』やノベライズの『ターンAガンダム』(!)や『凶天使』などの小説の挿絵も。

『マージナル』




最近の作品は正直なところあまり追っかけられていなかったんだけれども、今回こうやって自分が一番熱心に読んでいたころの作品を並べられると、あらためて望都様から自分の受けた影響というのは大きかったんだなあ、と改めて感じた。(たぶん高校生~予備校のころ)

そういった個人的な事情を抜きにしても、この方が日本のフィクション界隈に及ぼした影響というのは、なにげに大きいと思う―そう、それは表に華々しく見えるものではなく、地下水脈のように意外なところまで及んでいるように思う。

今回はSFという縛りがあったので、その全貌を一覧するという感じではなかったのだが、それがかえって逆に展示としては程よい規模に収まる一因となっていたともいえ、結果的に非常に良いバランスの展示だったと言えるだろう。

萩尾作品は内容が多岐にわたり、それぞれいろんな方向性があるので、その人その人によって出会う時期や、最初に読んだ作品によってその印象は左右されることと思うが、その深い視点からの作品内容と独特の繊細な描線で、どこからも文句の出ない大家の一人かと思う。名前を聞いたことがあったり、なにがしらかのの作品を読まれたことがある方は、ぜひこの機会に脚を運ばれるとよいのではないか。とくに一部の印刷では出ない色調をもった、素晴らしいカラーイラストは一見の価値あると思う。



『萩尾望都 SFアートワークス』




※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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