ちょちょら/畠中恵

標準

ちょっとメンタル的なストレスたまってて「あーなんか時代小説よみてーなー」と紀伊国屋書店をうろうろしてたところ、文庫のコーナーで本書が目に留まって。
時代小説はいろいろ出てるが、人(著者)によって合う合わないがけっこう出るのでどうかな?とは思ったが背表紙のあらすじを読むといけそうだったのでいってみた。
結果、なかなか面白かったので新規開拓成功の模様。

ちょちょら (新潮文庫)
ちょちょら (新潮文庫)

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畠中 恵
新潮社 (2013-08-28)
売り上げランキング: 34,038

多々良木藩の江戸留守居役・間野新之助は自裁した兄のあとをついで藩の江戸留守居役を仰せつかる。江戸留守居役は城主の江戸城登城につき従うばかりでなく城内の情報収集を兼ねた重要な役目。経済的な窮乏に追い詰められている多々良木藩であったがさらにそこへ印旛沼のお手伝い普請の噂が立ちあがる。なにかと死んだ立派な兄にかなわないと嘆いていた新之助だが、留守居役組合の強烈な先輩たちにしごかれつつ、なんとか自藩をお手伝い普請から逃すべく奮闘するのだが・・・。


江戸留守居役という意外と取り上げにくいだろう題材を、非常に緩やかな筆致で、にもかかわらず物語としての引きを失わずに一冊でまとめているのは多数著書を出している筆者ならではの力量だろうか。こういうややコミカル系の時代ものというのはともするとコミカルさだけに送り手が集中してしまって、意外と読みでのないぺらぺらな感じの作品が多いような印象があるが、本作はやや異なる。薄味ではあるんだが、けしてぺらぺらのお約束展開ではないということもあるが、登場上人物の心情の機微を実はしっかり拾っているからだろうか。

本作のテーマとなっている江戸留守居役というのはある種の諜報官僚で、スパイとまではいかないがそのコネと人脈をフル活用して自藩を有利にするために動くという、接待・交渉を主とする役目として描かれている。このあたりの感じはさしずめ「お江戸版・金融腐蝕列島」そのライト・コミカル版とでもいった感じか。

そういう政治、経済的な要素とほどよい人情話的なエピソードがうまくブレンドされていて、そこが前述の読みごたえにつながっているのかも。
ただそれは読後になんとなく気づくのであって、読んでいる最中は主人公・新之助の窮地がゆるゆるとコミカルに描写されるのに付き合っている感じで、気になって先を読み進めていくとあっという間にエンディング、そんな感じで気楽に読める。

一点だけ難があるとすればストーリーテリング上不可抗力ではあるんだが、後半の新之助の成長ぶりの過程がすこし裏側に回ってラストでぽーんと出てくるあたりかな。そこまでの描写はしっかりしているので不自然ではないんだけれども、前半の頼りなさぶりの協調があったので人によっては唐突に思えるかも。ただそのあたりは一応本作のヒロインっぽい千穂による兄との比較のやり取りで回収はしているのだが。

なにはともあれこういうゆるい感じで、かつちゃんと読みごたえのある作家さんというのは貴重かと思う。
なかなかいい作家さんを見つけた模様―藤沢周平氏の著作もそろそろ読み尽しつつあるので、次はこの方の作品をぼちぼち読んでみてもいいかな。

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