ガンダムUC証言集

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昨年末に出ていたモノだがいちおうレビューしておく。

ガンダムUC証言集
ガンダムUC証言集

posted with amazlet at 15.01.29
KADOKAWA/角川書店

昨年完結したガンダムUCの評論集。皆河有伽、堀田純司、切通理作などの文筆家らによる作品の解題をメインとした評論集。それに加えビジネス面としての作品をサンライズ宮河恭夫取締役、制作面を古橋x小形x福井の三氏による座談会、そして〆として原作者・福井晴敏氏によるニュータイプ考察の私論とされた一文が載る。


「証言集」とタイトルにあるがその多くは外部の評論家による稿で、内部スタッフがどう考え作品に臨んでいたのかというのを知りたくて予約して買った自分のような人間には、少々期待外れの一冊だった。
内容的には納得はいくものの、評論としてこちらを啓蒙してくれるような目の醒めるような切れ味のものはなく―逆にいえば至極まっとうな各論が並んでいる。

ただ興味深かったのは、どれもUCそのものの論評よりいわゆるファーストガンダムとの関連性を、それぞれの筆者が各稿でかなりのウェイトを割いて言及していた点だろうか。

よくUCを批判する際に「他人のふんどしを借りた二次創作」とか「同人誌」「全く新しいことが語られていない」という言葉が使われるが、本書を持ち出すまでもなく、それはある意味当たり前なのである。
なぜなら”ビジネス”として「Z」を作らざるを得なくなって以降、その苦悩からか本シリーズの生みの親である富野監督の作品は、明らかに大きくバランスを欠いたアンビバレンツな作品ばかりとなってしまった。
(これはある意味その直前の完全オリジナル作品である『聖戦士ダンバイン』のテーマ性と娯楽性の絶妙なバランスをみてみればよくわかる)

そんな状態でも通しで作品を見られるというのは、富野監督のずばぬけた演出力と含蓄あるセリフ回し故なのだが、広い意味で公の場所で公開される”娯楽作品”としては破綻しているものばかりになってしまった。
(一部では名作と呼ばれることもある『逆襲のシャア』も、監督の本来の意図していたところであろう『ベルトーチカチルドレン』と比べるまでもなくスケールダウンし、監督の持ち味を殺した幕引きだけのための作品だろう)

個人的にはそういった富野作品としての”ガンダム”を本来のエンターテイメントの枠組みの中に納めた上で、再構築してみせたのが本作『機動戦士ガンダムUC』だろうと思っている。
なので別に新しいことをしようなんぞ最初から思ってもいないし、独自の新境地をつくろうなどとも思っていなかっただろうと推察する。ましてや”脱ガンダムしてない””アナザーとしてやれ”なんぞ全くの的外れもいいところだろう。

よく「他人のふんどしで好き勝手しやがって」というのを批判の中で見るのだが、違うのである。要は富野監督のある意味やり散らかしたことを、監督やガンダムシリーズを敬愛するスタッフが敬意をもったうえで後片付けし・再生を試みたのがUCだろう。

なのでもし批判するとするのならば「富野監督がせっかくここまで壊してきたものをまた丁寧に作り直しやがって!ガンダムから脱出したい監督がかわいそうだろ!?お前らに情けはないのか!!」というのが筋だ(苦笑)。少なくとも”世間が望んでいる”ガンダム的なものをUCは―全部ではないにせよ-かなり内包している。(そしてそれは富野監督が投げ捨てたかったモノでもある)

本書の各論で必ずと言っていいほど、どの稿もファーストガンダムについて言及し、その延長線上にUCはあるということを述べているのをみると、以上のようなことを考えざるを得ない。
またこの春からファーストガンダムの真のリメイクであるThe ORIGINがはじまるが、これが最後まで完走した後になってはじめて、このガンダムUCの正確な評価というのは定まるかもしれない。

と、あまり本書の内容に関係のない話になってしまったが、最後に一つ。

本書の巻末を〆る、原作者・福井晴敏氏によるニュータイプ私論はなかなか読みごたえがあり、必読である。

その結論には首肯できないファンの方は多いかと思うが、そこに至るまでの論考や証拠の提示はかなりの説得力があるし、個人的には「ああ、こういうニュータイプの解釈というのもありだな」と感じた。それだけの非常に論理的な説得力を、本稿は持っている。

この論を踏まえたうえでEP7のニュータイプに関する描写の数々をみると、巷で言われるほど”オカルト”ではなく、ある種の整合性をもって演出されていたんだな、というのが良くわかる。

そして”私論”とあるが、アンチが良くいうような”オレ理論”でなく、すっっっっっっっっごい観てる、すんごい数見なおしてると思う、ガンダムシリーズのすべてを、福井氏。
正直「よくちゃんとこんなとこまで見てるな!?」とびっくりした。

ある意味国民的人気シリーズであるので、好き嫌いや納得の有無はそれぞれに当然あると思う。

ただまあ、それに見合うだけのもの―時間や労力やもっといえば人生―をささげてスタッフは作品をつくっとるわけで。

それだけは誰がどう思おうが、ゆるぎない事実―そう思うな。

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