先日のKindle角川70%OFF祭りにて。
以前いろいろと物議を醸す発言をされたことのある著者だが、先日お亡くなりにと聞いたこともあって読んでみた。
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四国に古くからある”狗神筋”の伝承―。過去にある過ちを犯してしまった美希は、それから不惑を過ぎるこの歳まですべてをあきらめるかのように生きてきた。そんな彼女の前に魅力的な若き教師・晃が現れる。周囲からの孤立感をずっと胸に生きてきた二人は、いつしか激しい恋に落ちるが―。
子猫殺しの発言をしたのがかなり問題となり、一時期物議をかもした著者の作品だが、ある意味さもありなん、という感じの作品ではあった。
ただ、その発言の趣旨や意図、また正確な事実を調べるところまでは自分はしていないので、なんとも言いようがないのだが、そういう喧伝されているイメージに反して、この作品はフィクションとしても常識の範疇におさまっている。
作品そのものとしては、日本の村落独特の閉鎖社会的な描写や、一人孤独の中に追い詰められていく主人公・美希の心理描写・そこへの伏線など名を知られた作家故の筆致のようなものを感じさせる。
しかし、なんというかなあ・・・そこが逆に言うとある層の読者にとってはリアリティにつながっているのかもしれないのだが、こういうある種猟奇的・サバト的―それも集団心理の恐ろしさをベースとしたそれ―な作品としては、若干情念のようなものに関しての描写にパワーがないようにも感じた。
ただ、これに関しては主人公・美希が、ある種すべてにおいて受動的にその運命に翻弄されざるを得なかった、ということが作品のテーマの一つとすると、ある種の必然でもある。
自分が昨今のそういう激情に流されるような作品に慣れ親しんでたから故に、そこに刺激を感じなかったのかもしれないし、なによりこのままでも十分クオリティの高い描写ではあるのだ。
けど、これだけ運命に翻弄されたのなら、もっと怒りにまかせて爆発してもいいのになあ・・・とは思う。
(いや、十分爆発はしてるんですけどね「この程度でええんか!?」みたいな)
そこが上記のような読後感につながったんだろう。
しかしまあそれをやってしまうと、冒頭とラストの善光寺参りの抒情性が失われてしまうわけで、ある意味本作は本作としてのまっとうな姿でそこにある、とも言える。
このあたり、どこか著者自身の裡にある、女性故の(いい意味での)か細さのようなものや、社会への疎外感のようなものが反映されていたのかなあ、とも思ったり。
また、内容そのものには直接関係ないのだが、個人的には近いご先祖様をたどるとうちはどうも両方とも四国らしいので、そういったところからもなにかしら感慨深いものはあった。
あと面白いのは、この”狗神”伝承にでてくる狗神というのは長野から関東にかけての狼信仰と異なり、イヌ科の動物のそれがベースではないような感じがする。
このあたりも少し調べてみると面白いかもしれない。