虐殺器官/伊藤計劃

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出版当時、SF界隈のみならず本好きの間ではかなり話題となった記憶のある、伊藤計劃氏の代表作。

早逝した人物は往々にして過大評価されがちな傾向があるが、そんなことを抜きにしても、日本のフィクション小説史に残る一作だと思う。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) [文庫] 伊藤 計劃


世界各地で頻発する虐殺。その虐殺の首謀者たちを狙う米軍特殊部隊大尉・クラヴィスは、数々の現場を転々とするうち、ある時その共通する点があることに気付く。そこには必ずジョン・ポールという名の男の姿があり、彼が入り込んだ後に、その国で必ず虐殺が発生していたのだ。

母の死や任務上の殺人、知らずに抱え込んでいた殺人への葛藤の中、ジョンポールの影を追い続けるクラヴィス。そしていつしか彼は、そのジョン・ポールの陰に大衆に働きかけ、虐殺を引き起こすあるシステム―”器官”が存在しているのではないのかと気付き始める・・・・・。

サラエボが核で消え、バイオテクノロジが違和感なく溶け込んでいる、現代の延長線上の極近未来を舞台に描かれる、一流のSFサスペンス。

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信長の棺/加藤廣

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隣町の古本屋にて。上下巻で400円。

信長の棺(上)

信長の棺(下)


『信長公記』の著者・大田牛一を主人公に、本能寺の変に消えた織田信長の遺体を巡る歴史ミステリー。
本能寺の変を当事者の視点ではなく、信長・秀吉の時代を”記録者”として生きた大田和泉守を狂言回しとして、謎の多い本能寺の変の裏側をたどる良質のミステリ小説。

ちなみに著者75歳にしての小説処女作とのこと。

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蝉しぐれ/藤沢周平

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先日の体調不良でぶっ倒れ期間中に読了。

蝉しぐれ (文春文庫)


藩の突然の政変で、父・助左衛門を罪人として失い、文四郎はまだ前髪も取れぬうちに、人生の大きな流れに翻弄される。それでもけなげに成長した彼は、かつて淡く憧れた、隣家のふく―現藩主の側室の危難を知る。人生の変転はここでも彼を、そして二人を精妙な糸のように導いてゆく―。

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【レビュー】『南極点のピアピア動画』野尻抱介

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ニコ同では”尻P”と知られる重度のミク廃であり、震災においては放射線関連の冷静なツイートで正確な情報を広めるなど、ある意味SF作家としての王道(?)を歩まれる野尻抱介氏、第43回・星雲賞受賞の一作。

『南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA) 』



月探査計画を研究テーマとしていた大学生・蓮見省一は、二ヶ月前、月にクロムウェル・サドラー彗星が衝突したことで挫折を余儀なくされる。時を同じくして、付き合っていた奈美も彼の前から姿を消す。しかし月にぶつかった彗星からのガスが、地球の極点で双極ジェットを描くことに気付いた省一はジェットに乗って宇宙へ上がれるのではと思い・・・。
奈美を宇宙へ連れて行ってやるという約束を果たすべく、彼と友人の郁夫、そして”ピアピア技術部”が立ち上がる。ボーカロイド・小隅レイの声に奈美へのメッセージを託して・・・。

初音ミク、ニコニコ動画などを模したキーワードのなかで展開するUGM,CGM時代ならではの王道SF連作短編集。

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