【レビュー】『バガボンド 37巻』井上雄彦

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先月末の帰省前後の発売だったためレビュー遅れたが取り上げておく。

『バガボンド(37) (モーニング KC)』


長岡佐渡に頭を下げ、飢餓に全滅しようとする村を救った武蔵。極寒の冬をなんとかしのいだ村人たちは秀作の下最後の賭けともいえる稲作りを始める。村人に生きる希望を与えた武蔵もその一員として水田に挑むが、飢餓を通り抜けた秀作の身体は酷暑を前についに倒れてしまう。秀作の名代として稲と対峙する武蔵だが・・・。

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【レビュー】『リアル 13巻』井上雄彦

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不覚にもボロ泣きしながら読んだ(苦笑)。

『REAL 13 (ヤングジャンプコミックス)』



高橋たちとともにリハビリを続ける、元プロレスラー・白鳥。ほとんど動かないその下半身を隠しながら、彼は長年のライバル・マンバ松坂との宿命の対決を迎えようとしていた。
全く動かない下半身―そんな身体にもかかわらず、彼がリングに上がったその時から、「悪役(ヒール)・スコーピオン白鳥」は会場の空気を支配する。その彼の全精魂を投じた熱い戦いが、花咲、そして高橋の心にあった見えない分厚い壁を吹き飛ばしてゆく―。

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【レビュー】『バガボンド 36巻』井上雄彦

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切り合いのシーンがないにもかかわらず、それに匹敵する迫真の描写。
ある意味物語におけるさらに一段奥の”核心”へと進んでいるエピソードかと思う、凄い・・・。

『バガボンド(36) (モーニングKC) 』



伊織と共に暮らしながら、不毛な土地に挑み続ける武蔵。しかしその不毛の大地は容易に言うことを聞いてはくれない。「土の声を聞け」そう秀作に言われるがそれは容易には聞こえてこない。徐々に追い詰められていく弱い者―村人たちははじめ武蔵の強さを嫌悪し、やがてそれに一縷の希望を託し始める。しかし冬は容赦なく不毛な村を襲い、次々と村人が倒れてゆくなか、ついに武蔵はある決断をする―。

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【レビュー】『バガボンド 35巻』井上雄彦

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インタビューなどを読むと、どうもそれ以前からそういう傾向はあったかと思うが、吉岡編終了以降というのは”著者・井上雄彦”という存在自体を、試行錯誤含めてLiveに表現している傾向が強まっているように思う。

『バガボンド(35) (モーニング KC)』



伊織と暮らす生活をつづけ、自身の中を見つめ続ける武蔵。村を襲う”水”は小次郎の影を映し、田を耕せば”土を殺しているかのよう”との声。挙句は極限の村を襲う蝗の大群―そしていまだ消えぬ”我執”の炎。
武蔵の自己との戦いが続く―。

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空白―井上雄彦

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鼻風邪を引いてこの3,4日行動不能だったのでその間に。

空白/井上雄彦



井上雄彦氏、バガボンド休載前後についてのインタビュー集。

ここに書かれていることと、じぶんのこととはレベルの天地の差はあると思うが、非常に得心のいく、というか思わずうなずく内容だった。

なにかを作る、というときにある程度のところまでは、ロジックやスキル、あるいはその蓄積で作ることは出来るが、自身の感覚を”その先”へ連れていってくれる境地へ導くには、高負荷と楽しさが溶け合って混在するような、止揚したような状況が必要になる。

そういうときって、しんどいけど自分の全能力が能動的に動いている感じがして、負荷を感じつつ負荷とは感じていない、それ以前にその状態が楽しい。
(この”楽しい”というのも正確に言うと若干ニュアンスが違うのだが)

こういう状態の全能感、というのはたぶんなにかを極めた皆さんは、漏れなく経験されてるんじゃないかな。

そしてそういうところで通用するのは、「理屈」「論理」「技術」ではなくて、種火のように静かに燃えて方向性をしめす「気持ち」と「感覚」。

このとき、この「感覚」と相反する状況に身をおいてしまうと、エネルギーが強い人であればあるほど、コンフリクトを起こしてしまうと思う。

そういった「状況」に対しても自己制約のきつい方ならなおさら。

井上氏のケースはそれじゃなかったのかな。

克己心とそういう感情・感覚の力、その双方が尋常じゃなく飛びぬけて強いんだと思う。
ましてやそれが、自分で設定してしまったものなら、なおさら。

なにかものを作ろうか、という全ての人が目を通しておいて損はない一冊だと思う。




自分の気持ちに嘘をつかないこと―そのなんと大切なことか。