THX-1138

標準

いわずと知れた、ルーカスのデビュー作。
そのむかーし、地上波でちら見したような記憶はあったが、そういや通しで見てなかったわ、と思い月極めレンタルで。

THX-1138



近未来、超管理社会でロボット製造のラインマニピュレータとしてはたらくTHX-1138は、自身のメンタル的な不調をきっかけに、徐々にこの管理社会に疑問を抱き始める。

同じく、徐々に人間らしい感情を取り戻しはじめていた、ルームメイトのLUH-3417と彼は、都市を脱出しようと計画し、禁止されていた肉体関係にまで及ぶ。

しかし全ての行いが監視されていた二人は、管理機構に逮捕され、LUHとは離れ離れに。

矯正施設から脱出を試み、成功したTHX-1138だったが、そのときLUHは既に・・・。

このディストピアから脱出しようと、彼はパトカーを奪い、逃走を試みる。
しかし、銀色の、無表情なマスクをつけたロボット警官たちが、管理当局の指示にしたがって、彼を追いかけてくる・・・。



いや、このタイミングで見たのは、ぞっとするぐらいグッドタイミングだった。

なにしろ主人公が工場で扱っているのがおそらく放射性燃料。
それをロボットの該当部へセットするのが、彼の仕事なんだけれども、彼のとおなじような別プラントでの事故の描写が、(偶然とはいえ)福島の事故を揶揄してるようでぞっとする。

防護服を着た、作業員たちを映すカメラ。

しかしそのカメラに、作業ブースが次々と爆発し、作業員たちが次々と吹き飛ばされていく姿が、淡々と無音で映し出される。

また都市の描写で、あふれる雑踏のなかを無表情に歩いていく大群衆を見ると、これといまの東京となにが違うんだろう、おもわずそう思ってしまった。

個人的には、いまの日本の世の中は、そう悪い世の中ではないと思っている。

しかし、本作品に描写されているディストピア的なディティールと、そっくりそのままの現実が、間違いなくいまこの21世紀初頭の東京には存在している、というのも事実だ。

違いといえば、娯楽が抑圧されていないことぐらい。
逆にいうと、本作での管理都市の最大の失敗はそこなんだろう―。

そう思い至ったとき、逆接的にぞっとした。

そら、放射能がこれだけ騒がれても誰も怒らないし、ましてや暴動が起きる気配もない。
はたして、自分の思っていた「いまの日本社会はそう悪い社会ではない」という考えは、真実なんだろうか?

まあ、少なくとも、洗面台の薬棚にはカメラもマイクも、いまのところは仕掛けられてはいないが(苦笑)。


あと本作で特筆しておくべきは、そのデザインだろう。

『2001年宇宙の旅』を思わせる、真っ白く飛ばした画作りや、細かいカットで挿入される機器類や、電像文字の映像。

それ自体のデザインは古いはずだが、トータルとして世界観と溶け込んでおり、それだけが浮き上がることはない。
むしろスタイリッシュなぐらいだ。

ピニンファリーナっぽいデザインの、パトカーもカッコイイ。
(フェラーリのディノみたいなヘッドライトだ)

ほぼ自分と同い年ぐらいの映画にしては、時おり「おっ!?」と思う映像もあったが、これはDVD版発売に際して「ディレクターズカット」とのことで多々追加されているからだそうだ。
(特撮シーンだけでなく、本来あったがカットされていたシーンも追加されているとのこと)

公開当初は難解、といわれ、あまり話題にもならなかった本作だが、それはある意味、先を読みすぎていたのだ―そういえる作品だと思う。

大家のデビュー作というのは、既にその萌芽が見える、そういうことだろう。

細かく見れば破綻もあると思うが、昨今のハリウッド映画とは違い、過剰なBGMも、盛り上げ演出もなく淡々と進んでいくこの映画は、感性の合う人ならば、きっとある種の感慨を得るだろう。

個人的にはすごく好きな雰囲気の一本だった。




※あと、個人的にNine Inch Nails の大傑作アルバム、『Downwardspiral』のサンプリング元ネタになってるのが多くて、さらにお得感倍増だったのはヒミツ(笑)。

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