おなじく書店にて発見。
『ウルフガイ 11 (ヤングチャンピオンコミックス』
前巻でようやく監禁されていた先生と再会、羽黒の用意したトラップ満載の廃墟からの脱出行がはじまるが、竜子に刺された傷からは血がしたたり、地雷原を抜けた犬神明は文字通りの満身創痍。失血のため、まともに歩くことすらおぼつかない。
しかし彼は「俺を信じてくれ」との言葉と共に、先生を繫ぎとめている鎖を文字通り引きちぎろうとする。
そんな二人の元へ、犬神に焦がれ、真の悪霊と化した羽黒が戻ってくる・・・。
今巻を読んで改めて思ったのは、本コミカライズ版の最大の功績は、実は青鹿先生のキャラクターをいちばん明確に描写できたことかもしれない。
こう書くと、ついつい当ブログへのお客様のうち、けっこう「ウルフガイ 青鹿先生」で探してこられる(多分例の強姦シーンの画像目当てで検索?の)変態紳士の皆様が多いのを思い出してしまうのだが(苦笑)、そういうエロ目当ての方でなく長年の原作ファンの方ならご存知かと思うけれど、平井作品には『女神』論というのがあって。
ようするにこれは、こういうフィクションの作品には、その作品の”生命”とでも言うべき登場人物がいて、そのキャラクターがいないと作品が死んでしまう、と。(*1)
その象徴たる女性キャラクターを、平井作品では『女神』と表現しているんだけれども、このウルフガイの原作版には実はそれと思しき女性が二人登場する。
そう、青鹿先生と虎4(フー・スー)だ。
このコミカライズ版では虎4はまだ登場していないが、実はこの虎4が強烈な”魅力”を持っていて、以前からウルフの女神様は虎4だ、というのが言われていた。
(事実その気配は濃厚である)
青鹿先生は、この『狼の紋章』以降も、極めて重要な位置を占めて登場はするのだが、事実上、”登場人物”として表に立つのはこの『紋章』が最初で最後だ。
(先生の相貌を似せた「沢恵子」「マー」という、どちらも超重要人物は登場してくるが、ご本人の”意志”を持った出番は、ある意味、ない・・・)
そういうこともあり、また、虎4のような積極的なキャラクターでもない―鹿と名についているように受身のキャラクターでもあるので、正直、影が薄いのは否めなかった。
それがどうよ?
このコミカライズ版での表情―数は少ないが、特に自分の意志を主張しているときのそれが、非常にいい。
すごく美しく描かれてる。
よく”マンガはキャラクターが命”といわれるが、そういう意味で、このバージョンで、青鹿先生はようやくキャラ立ちした作品を得たような気がする。
そういう意味で、作品としての『女神』をちゃんと得ることのできた本作は、当然”成功”を約束されている、ということで間違いないだろう。
これ以上の引き延ばしがなければ、おそらく次巻で『狼の紋章』セクションは完結する。
たぶん、これまで別メディアで作品化された『紋章』の最高バージョンである、というのは断言してもいいと思う。
完結を静かに待ちたい。
(*1)
女神論のロジックが働いているものを、別作品で例を挙げるすると、FSSのアイシャなどがそれに相当すると思う。
「全巻登場させる!」とのたまうのは、永野氏も直感的にそこをわかってるんだろう。
こうは書いたが、実は青鹿先生は、別の平井作品でいくつか登場する。
元々平井先生の作品は”多元宇宙”が世界そのものに組み込まれているので、作品間の並行移動がけっこうある。
そういう意味では、こういうあたらしい”顔”を得た青鹿先生の、それらの作品でのイメージも、今後変わって見えてくるかもしれない。
それらの作品の中で先生が主役になっているのは『女神変生』(トクマノベルズ)。
これは平井作品の登場人物総登場、という時々発表される”お祭り作品”的な一冊なのだが(同系統として『ウルフランド』(角川文庫ほか)がある)、読み口は比較的シリアス、というか『ウルフランド』ほどギャグ全開ではない。
下敷きとして高橋留美子氏の『めぞん一刻』的なものがあるようだ。
(高橋氏もウルフガイとは縁が深いのだが、これはいずれ虎4が出てきたときにでも)
もう一つは『幻魔大戦deep』シリーズ。
これは幻魔のファイナルシリーズなのだが、この中で青鹿先生は、字は同じ読みが「しょうこ」になって登場する。
deepは、さらに『幻魔大戦deep トルテック』というのがあるのだが、手元にあるが諸般の事情で未読。一説によると、本作で青鹿先生は犬神明との再会を果たすそうだ。
個人的には、この幻魔シリーズでの青鹿先生が、本コミカライズ版と印象が比較的近い。
(もう少しシリアスで大人っぽくはあるが)
変態紳士の皆様も興味がわかれたのなら一読されてはいかが?(苦笑)
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正
初めまして。『ウルフガイ』のブログを探していてたどり着きました。マニアックなブログですね。
『ウルフガイ』からは〇十年前に卒業したつもりでしたが・・・漫画が最近出たと聞き、青春時代を思い出しました。
続編「狼のレクイエム」はないのでしょうか?虎4が見たかった。。
泉谷さんの絵が非常に美しかったです。
完結した『犬神明』はオススメですか?「黄金の少女」シリーズまでは読んだのですが。
更新お待ちしています。
コメントありがとうございます。
紋章で終わってしまうのか、怨歌以降をやってくれるのか、確定情報持っていないのですが、このコミカライズ版はある程度話題にはなっているようなので「有り」ではないかと個人的に思っています。
虎4と西城はこのチームの作画で是非見てみたいですね。
「犬神明」編はかなり賛否分かれると思います。
標題どおり犬神明の内面の葛藤ー死と再生が描かれていて、ある意味「男の子」というものの生き辛さと乳離れを描いている作品だと思います。
重く垂れ込めた雲で埋まった空に、一筋だけ光が射す、そう言った切ないラストでした。
ウルフもハルマゲドンストーリーだったんだな、と。
また次巻以降も取り上げるつもりですので、宜しければご覧になって下さい。
こんいちは。ご丁寧な回答有難うございます。
『ウルフガイ』漫画は書店にもネットでも在庫がなく、全館揃えるのに苦労しました。発行部数が少ないということは、人気なかったのかな?と心配しましたが・・・
実際アマゾンの評価等でも、この漫画は賛否両論分かれるようですね。漫画として見るには少し、説明っぽい台詞が多い気がするし、原作を知っている読者には許せないものもあるのかもしれませんが。
『犬神明』に関しては、現在平井氏の書籍は書店にもネット書店でも在庫はないですね。古本で買うか、e文庫で買うかしかないのでしょうか?旧人類なので、パソコン上で読書をするのに抵抗がありますが。。。
「女神論」は興味深く読ませて頂きました。あの漫画が正しい形で原作の意図したかったことを、読者に伝えてくれればな、と思うのですが、11巻を読んで少しほっとしました。
今思えば、犬神明と青鹿先生の関係って純愛、プラトニックラブですよね。そこら辺が巧く最後まで表現出来てくれれば、と言う感じです。
『犬神明』は入手出来たら読んでみようかな、と言う感じです。有難うございました。
揃えにくかったとのお話し良くわかります。自分も久々に発売日気にして品揃えの良い書店で購入するようにしてました。
実は「話題に」と書いたのもその辺りの入手し易さの変化からです。(以前置いてなかった店に巻数追う毎に見かけるようになりました。)
思うに版元が秋田書店という劣勢なところなので、様子見の意味で刷りを絞ってたのではないかと思います。
説明文が多いのも同感です。ほかが良いだけにもったいないように感じますね。
「犬神明」はおそらくヤフオクなどが一番入手し易く価格も妥当なものを見つけ易いと思います。
紙の本で読みたいのはやまやまですが、平井先生御自身が電書志向に向かわれてたようです。
自分も最初は抵抗ありましたが、iPhoneでPDF版の幻魔読んで見たら意外といけました(笑)。
チャンスがあればお試しを。
はじめまして。
原作の青鹿先生は、人格があった時は情熱を秘めた女性であり母性でもありました。
人格がなくなってからは、全ての苦しみが消えて童女になりました。(青鹿晶子の魂よ安らかにと祈ります)
トルテックでは丈のいる空間に守られて、彼女には危害が加わる事が無く安心しています。
はじめまして。コメントありがとうございます。
青鹿先生はほんとうに”魂ある姿”での登場シーンが全体からすると少なくて(おまけにひどい目ばかりで)、人格がなくなっての童女のような状態はだからこそより一層涙を誘うというか・・・ほんとひどい役回りですよね。
だからこそ、トルテックで彼女が出てきたときはほっとした、というかようやく報われたという気分が強かったです。
このコミック版と前後して読んでいたので、ビジュアル的にもこの青鹿先生思い浮かべながら読んでました(^^)
平井作品である意味最強キャラの東丈―それも自覚的に覚醒してる―の側にいるので仰るとおり一安心な感じです(笑)。
トルテックもそのうち記事にしたいんですがなにせ長いので、なかなか(苦笑)。