2022年に読んだ・観たコンテンツ─個人的まとめ

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コロナの家ごもりから始めたこのシリーズ、ここまで引っ張るとは思わんかったわwはよコロナ終わってくれ、不安なく旅行に行きたいんじゃw

ということで今年も家にこもってた間に読んだ作品をご紹介。これまでは基本コミック作品に限定していたけども、本年はアニメ作品や小説なども取り上げてみる。紹介の順番はあまり意味を持たせず、適当に並べた。作品数多いので、気になったタイトルがあればつまみ読みの感じで目を通していただけると。

※↓記事内主要画像のロード終わらないとリンク飛ばない場合あるようです、ご勘弁を。

コンテンツ

一般コミックス

『ゴールデンカムイ』


今年完結した話題作。テーマ性、緻密で迫力のある大自然の描写、そして何よりエンタメとして面白い王道作品。自分は完結前後の電書のセールで読んだが、われわれ現代人が便利さのために置き去りにしてきた「野生」を思い起こさせてくれる作品。折りに触れ、長く語り継がれる作品になると思うし、それだけの質量もある。逆にこの作品をみて「うっ」と引いてしまう方は社会との距離の取り方を少し再考してみるのもいいと思う。「汚濁」や「理屈では割り切れないもの」というのは実はいまだ「動物」でもある我々の本質の一つであるし、その真逆にいまの「便利で分かりやすい」現代社会がある。どちらが良い・悪いという話ではないが、我々もまた「動物」であるということは揺るぎない事実─本作はそういうところをあらためて思い出させてくれる作品なのだ。個人的には疑似親子関係ともいえる谷垣ニシパとチカパシの別れのシーンが非常に印象に残っている。巣立ちと継承、その本質を見事に表している表現だった。

少し話題がズレるが、この作品の周囲で面白いなと思ったのが、開催されていた作品展の女性入場者比率がけっこう高そうだったこと。本邦、ジャニタレに始まりK-P○Pタレントといい女性化したような男性のほうが人気のような潮流続いていたと思うんだが、本作に登場するそれはそこから真逆にある男臭い男─ある種ホモネタがギャグになるくらいに(苦笑)─なのだが、案外我が国女性陣のなかにも見る目を持ってらっしゃるご婦人方が多々いらっしゃるということであろうか─いや御婦人じゃなくて御人故に集結されたのかもしれないが(苦笑)。

『SPYXFAMILY』

これまででいくと「佳作」評価止まりになりそうな本作がなぜここまで(アニメ化による影響ではあると思うが─特に海外で)大ヒット作となったかというと、やはりタイトルにもなっている「家族」ということへの回帰があるんじゃないだろうか(アーニャさんの顔芸の破壊力は言うまでもないがw)。

これまで話題になったコミック・アニメ作品とは違い、極端な暴力描写やセックス描写が少なく、それこそ家族みんなで笑ってみることができる楽しい作品─この部分は間違いなく大きいと思う。個人主義や自由恋愛という、古い社会や共同体の掟とは真逆の自由を謳歌していたはずの我々が、こういう作品に魅力を感じるというのは、ある種の反動なのかそれとも回帰なのか─。作中の不自由な社会の中で偽りの家族を演じている彼らがとても幸せそうに見えるというのは─フィクションであるにしても─そんな不自由さの中にも実は幸せはあり得るのでは、ということを改めて考えさせてくれる。

ただコミック版の最新刊やアニメ版今シーズン内での描写のように、けっこうハードなバックボーンからは逃げていない作品ではあるので、個人的にはそこがこの幸せな偽りの家族の終着点とどう絡んでくるのかはすごく気になるところだ。

※またこれらのハードボイルドなシーンは、この2022年という我々の現実社会への痛烈な批評の側面も持っており、その作者の静かな意思表明には敬意を表する。

『舞妓さんちのまかないさん』


京都の舞妓文化、その日常を裏側から丁寧に描いている良作。NHKでアニメ化もされていたようだが、その内容からかなり海外を意識した、ちょっと変わったフォーマットで制作されていたようだ(そうだよ、こういうところにこそもっと受信料使えNHK!)。

かなりしっかり内実を取材して描かれているようで浮ついたところがなく、タイトルから受ける印象と反してかなり骨太な作品。とはいえ主人公たちはまだティーンで、いわゆる都市部に住む我々が考える「普通」からは意外と想像しにくい世界を、それぞれの三者三様で生きている─その姿はやはりある種の青春模様だ。考えようによってはすごく狭い世界でのお話だが、それをこれだけきちっと逃げずに描いているのは素晴らしいなと思う。どうか淡々とこの調子で描き続けていってほしい。

『セインティア翔』

ご存知「聖闘士星矢」のスピンオフ作品。女神アテナの肉体が人間の少女である以上、その身をまわりの世話をする女性聖闘士がいるはずという発想からの作品。一部本編と時系列被るがアニメオリジナルが初出?だった女神エリス編の設定を流用し対エリス戦が主題となっている。で、この作品、一言でいうと「少女マンガ版聖闘士星矢」である。そして驚くことにその相性がめちゃめちゃいい!正直ここまでピタッと合うとは思わなかった。一つは登場人物が基本的に美男美女しか出てこないので画面が常にキラキラとまぶしい(笑)。作品冒頭は十二宮編を裏側から眺める視点で進むのでややとっちらかっている感はあるが、エリス編に本格的に突入すると無駄なより道が減り、物語もぐっと引き締まる。加えて本編の黄金聖闘士も美麗な作画でバシバシ出てくるので画面が眩し(略。本作の最大のポイントはラスト─少し悲しい余韻をもたせて美しく終わっていること。星矢本編もその気味はあるが、実力不足なりに自身もそれを自覚した少女たちの文字通り捨て身の献身で物語は締めくくられる─このあたりも少女マンガ的な文脈を感じさせカタルシスがあった。車田先生ご自身も少女マンガ的なテイストをお持ちなので、その相性の良さがストレートにでたのだろう。

『空挺ドラゴンズ』

絵柄からみてもおわかりのようにどストレートな宮崎駿フォロワー的画風✕捕鯨を仮託した「龍捕り(おろちとり)」たちを描いた作品。自分は知らなかったが以前にアニメ化もされていたようだ。狩りの対象となる龍が空を飛ぶという設定のため、主人公たち龍捕りたちも空飛ぶ捕龍船─飛空艇で大空を東奔西走し、地面に足をつけて眠ることは稀、そういう世界観。また当初はダンジョン飯に代表されるような異世界グルメ系の雰囲気も濃厚で、作中の一番のメインキャラであるミカがとにかく龍を食べることに貪欲─それも「少しでも美味しくいただく」ための労力を厭わない、という部分が物語をドライブさせていた。もちろんそういった部分だけでなく、当たり外れの多い捕龍船の生活ならではの資金繰りの問題や、舟のメンテ、地上に済む一般市民との葛藤なども丁寧に描写されている。既刊分の巻数を重ねるにつれて、龍狂いの大貿易会社の御曹司との絡みや、舟の主要メンバーの一人であるミステリアスな美女・ヴァナベルのバックボーンに絡んだ展開などもあり、物語全体のスケール感も広がっている。

冒頭にも書いたように宮崎駿フォロワー的画風とは言えると思うが、物語自体は独自の世界観が確立されていて、ありそうでなかったオンリーワン的作品。大空を飛びまわり、龍を追いかけ世界を旅してみたいという方にはもってこいの作品。

『辺境の老騎士バルドローエン』


かつて身近にいた少女─若き姫君を心の底で慕いながら、その忠誠は民衆のために捧げ「人民の騎士」として戦い続けてきたバルド・ローエン。その彼もいつしか老い、騎士としての全盛期を過ぎようとしていた。これまでのしがらみから自身が国難の原因の一つとなっていると感じた彼は、暇を請い、残り少ない人生を浪々の旅に生きようと故国を離れる。そんな彼がその旅先でさまざまな人々と出会い、いつ果てるともしれぬ旅を続ける、そういう作品。物語の前半は慕っていた姫君とその忘れ形見の巻き込まれた事件を解決すべく奔走するが、その事件の解決と前後してその愛しの姫君は早世してしまう。本来ならここで物語を終えてもよい区切りだが、彼の生命=旅はまだ終わっていない─そこから彼自身の本当の旅が始まった。

この作品も前述の『空挺ドラゴンズ』とおなじく”異世界メシ系作品”の性格を持っていて、こちらはその設定から野営食の描写が多いのだが、どれも美味そう(笑)。個人的に「食事の描写が丁寧な作品に外れなし」というのがあるが、本作もその例にもれないようだ。作中では登場メンバーもパーティ的に固定されてきて良いバランス。少なくとも物語前半の孤独の老騎士が死に場所を旅に探す、という風情ではなくなってきている。現状は異国の姫騎士を助けて彼女の目的に助勢する形で話が進んでいるが、ストーリ的にその姫騎士の故国へこれから戻る展開になると思われるので、そこでまた次の方向性が見えてくるだろう。野営の旅の描写が好きな方にはおすすめできる一品。

『アビスアジュールの罪人』


前作の『ストラヴァガンツァ-異彩の姫-』の頃から紹介したいなと思っていた作家・冨明仁氏の最新作。この方はおそらく自分が読んできた中で一二を争う「マンガ描写のうまい」作家さんで、とにかくその構図や動きの描写が素晴らしく、セリフが一切なくとも画面を構成できるという稀有な才能の持ち主。その証拠に氏の作品の多くは冒頭無音のミュージカルとも言える躍動感あふれる描写で始まることが多く、それで連載一話分相当をちゃんと読み切らせるのだ─これめちゃくちゃすごいことですよ!?画力と演出力がなければとてもじゃないけどこんな事できない。

作品としての本作は人魚の世界が舞台で、人間と出会ってしまい恋をしたリュウとその親友ジョーの二人の女の子を中心に、リュウと恋仲になる人間の雪、人魚側の生息粋奪還計画ともいえる「人魚島計画」の尖兵として働く暴力的な人魚の男マヤなどが登場する。まだ2巻しか出ていないので物語は始まったばかりだが、人魚は人に見つかってはいけないという禁忌を抱えているため、人間と繋がりを持とうとするリュウとその彼女の恋を助けてやろうとするジョーの周りは常にある種の緊張感が漂っている。続きが気になるところだが、あまり刊行ピッチは早い方とはいえず、続刊が待ち遠しい。

『タコピーの原罪』


最初読んだ時はそのディティールに目が行ってしまって、単なる貧困層と重度のメンタル不全の親に巻き込まれた子どもたちのお話として理解してたんだが、本稿を書くにあたって再度読み直してみたところ、これ、ある種の「堕天」の物語なんだな。だからこそタイトルにも「原罪」とあると。そして彼はその犯してしまった原罪を償うために最終的にはその身を捧げるが、居なかったことになる彼が三人の子どもたちの間に残した「なかったはずの記憶」が、彼が確かに存在した証のように彼女たちの心に小さな明かりを灯す。そう理解すればこれは無垢でいられたはずの彼が「人」という存在に出会ってしまったが故の「堕天」の物語であり「原罪」の物語であり、その「人」たちに火をもたらした罪で苦しみ続けたプロメテウスの物語なのかもしれない。彼=タコピーは罪を償うためにその身を捧げたが、彼が残した小さな炎は最も必要なのに最も欠けていたもの─「対話」の火種となり彼らの間で生き続けている。今回はそう理解したが、上下巻2冊の割にぎっちりといろんな物が詰まっている作品なので、また時間を置いて読むと見え方は違ってくるのかもしれない。

『地元最高!』


『タコピーの~』もメンタルを削られる作品ではあったがまだその設定にファンタジー色が残ってただけマシだったかもしれない。それに比べて本作はそのお世辞にもうまいとは言えない絵にも関わらず、ゴリゴリとこちらのメンタルを削ってくる容赦のない作品。それはこの最底辺層における苛烈さの描写から感じる妙なリアルさ─それ故であろうか。こういう本当の最底辺・極貧困層のディティールはかつての西原理恵子作品でも垣間見えたが、ここまでの「救いの無さ」というのは流石になかったように思う。しかしこの作品に関してはもうほんと徹底した地獄で─知恵がない、知識がない、まともな経済力がない─故に、この劣悪な環境から抜け出す希望もまったく持てない。そんな「地元」で、なんとかその生命を繋いでいっている女の子たちのサバイバルの物語。

ここまで強烈な環境が本当にこの令和の日本にあるのか自分には分からないが、この作品に感じる容赦ない救いの無さと言うのは、やはり我々がこの描写の中になにがしらかの「有り得る話」というリアリティを、断片的にせよ感じるからだろうな・・・。これがフィクションであってくれてほんとに良かったが、この作品の中にあるような現実は、実はこの日本国内のどこかでいまも起きていることなのだろうか?─だとしたらつらすぎる。

『さよなら絵梨』


『チェンソーマン』の藤本タツキ氏による短編作品だが、藤本氏の「名作からB級まで」─独特の映画愛を感じられる一作。ストーリー的には自主制作映画を取る男の子と不思議な女の子の出会いから別れまでを描いた作品といえるが、氏の作品はどれも感想を書くのが非常に難しいのよね(苦笑)。作品としてやはり独特の感性で貫かれているし、『チェンソーマン』の第二部までの休載期間で描かれたこともあってすごく丁寧に描かれている印象。しかしそのストーリー・プロットはどこか人を煙に巻くようないい意味での天邪鬼さも感じられ、藤本タツキというマンガ家の一筋縄ではいかない作家性を感じる─ぜひ押井守監督あたりで映像化してほしい(笑)。まあこの作品に関しては実際に読んでみていただくしかないかと。

あとやはり構図がうまいというか、実質スクリーンを想定したであろう定形のコマ割りにも関わらず、その一コマで絵になるような構成力が素晴らしい。雑に言うとネットミームになりそうなシーン満載やな、と(苦笑)。『チェンソーマン』のOPにも流用されていたかと思うが、今後この「爆発シーン」の構図はある種のお約束になるのでは。

『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』

いわゆる宇宙世紀モノのガンダム作品として比較的名前が上がる機会の多い作品ということもあり、数年前にレンタルで見たのだが、その際そのあまりの酷さに生まれて初めて罵詈雑言を画面に投げつつ早送り再生で鑑賞せざるを得なかったのがこの0083(苦笑)。そのリマスター的作品ということで気にはなっていたが電書のセールが重なった際に安価で購入できたので怨念晴らしとして一読。

「これならいけるやん、ありやん!?」

という読後感になりました。軒下収納のモビルアーマーとかは残ってたけどモビルスーツのお腹のネジが雑に爆発して死ぬ上官とかは存在しなくなったし(苦笑)、「ガンダム三大悪女」の一人として名高い紫豚さんもキ○ガイのサイコパスから重めのメンヘラぐらいになって一応理解できる存在になってた。いちおうビデオ作品の範囲である巻まで購入したが、後日談として登場人物たちのその後を描くパートが続刊のようである。もし元作品である0083に消化不良的な怨念を抱えてらっしゃる方がいるならば迷わず成仏させてくれるであろう、非常に功徳の高い作品(笑)。

『百姓貴族』


ご自身も農業高校出身で有名な荒川先生の、ご実家を中心とした「農業エッセイ」マンガ。そのあたりは名作『銀の匙』でも十分に発揮されていたが、今回はダイレクトに”実際の農家そのもの”ベースの作品なのでそれだけでも興味深いのに、事実は小説よりも奇なりというか荒川農園全員キャラ濃いすぎw加えて荒川先生の持ってらっしゃるブラックユーモアの部分がいい意味でぞんぶんに発揮されており、それがまた事実ベースなのが余計にひどい(笑)。グレーゾーンギリギリというかほぼブラックなネタをこれでもかとブチ込んでくるんだけども「これはあくまで聞いた話ですが(棒)」的な描写が一つのギャグとしてお約束になってるの、これはズルい、ズルいでしょ?!(爆笑)

聞いた話だとアニメ化も予定されてるそうだが、大丈夫ですかね?(笑)とはいえ農家や農業の現場を知り尽くしている方が原作の作品が放送メディアに載ることにより、より一般社会での理解が進むきっかけになりそうなのは単純によいことだと思う。興味が湧いた方にはおすすめの一作。

『スピリットサークル』


いわゆる「輪廻転生もの」といえるが、本作のすごいところはそのスケール感のとてつもない大きさ・凄まじさ。背後霊が見える以外は平凡な中学生・桶屋風太は、額に大きな傷のある転校生の美少女・石神鉱子の背後に見える霊体・イーストにうっかり挨拶をしてしまう。しかしイーストが見えたとわかった瞬間、鉱子は風太に襲いかかり「今生で私達の戦いを終わらせる!」とこれまでの7つの過去世を思い出すよう風太を導く。彼女とはそれぞれの過去で関係の違いはあれど切っても切れない因縁があり、その最初にして最大の因縁はこの宇宙そのものの存続にかかわるものだった─。

現代での主人公風太とヒロイン鉱子は、仇敵の間柄にも関わらず複雑な感情を重ねながら過去世を思い出していくのだが、それぞれの過去生にしっかりとウェイトがあり、とても全6巻とは思えない内容の濃さ。加えてそれぞれの過去世の因縁やしがらみとの整合性も破綻しておらず、その世界観というか宇宙観のスケールの大きさは特筆もの。にも関わらず、本作は中学生を主人公にしていることから良質のジュブナイルものの性格ももっており、このジャンル独特のある種の郷愁が読者の胸を締め付ける─加えて中二病の定番「輪廻転生の仲間たち」まで加わっているので、もう破壊力抜群!?(泣笑)。
こう少し茶化して書いたが、エンタメ作品としてすごく読みごたえがある。繰り返しになるがとても全6巻と思えない密度の濃さで、俗な言い方になるがコストパフォーマンス良すぎる作品である─体感的には20巻弱の作品読んでるような感じ。加えてすこぶる面白いストーリ。本作は筆者が興味本位で受けた催眠退行のときの夢がきっかけとなったとあとがきにあるが、それだけではここまでの作品はかけないと思う。次に紹介する短編集を読んでみても分かるが、とてもマンガという媒体に向いているある種の才能の持ち主=一種の天才なんだろう。非常におすすめできる作品。

【余談】
少し作品形式が特殊なため本記事では取り上げなかったが、このスケール感のデカさは本年完結したこの作品(『タテの国』/少年ジャンプ+)にも似ている。


『放浪世界』


上述の『スピリットサークル』でも複数の過去生のエピソードをきっちり描き分けていたが、更にいろいろな色合いの世界をカラフルに見せてくれる同じ著者の短編集。シリアスなものからコミカルなものまで一通り揃っていて、どれも独特のアイディア・感性に溢れている。さきに「一種の天才」と書いたが、それを更に証明してくれている一冊かと思う。特に短いページ数で壮大なスケール感を感じさせる最後の「虚無をゆく」は似たようなアイディアはよく目にするが、それをここまでの「存在感」をもって作品化しているのは、やはりその高度な作劇術によるものだろう。『スピリットサークル』も読んで損はさせないと断言できるが、とりあえずちょっとつまんでみたい、という方にはこちらの短編集をおすすめする。

『もっけ』


読んだのは今年になるが、作品自体は10年ほど前の作品のようなので、備忘録的にだけ短く紹介しておく。ちなみに大学時代の先輩に教えていただいた作品。

いわゆる怪異が「視える」系の姉妹がその能力ゆえ、民間の祓い屋をしている祖父の元で疎開的に暮らす中、その能力とどう付き合っていくのか学んでいくという物語。かなり民俗学的なディティールが濃厚な作品で、好きな人にはたまらない作品ではないだろうか。その作中の怪異の出現の仕方や、それに対するアプローチなど、すごくしっくりする描写が多い。この系統の作品はついマンガ的なサービス精神でアクション作品的なところへ派生するものも多いが(それ自体は決して嫌いではないが)、本作はすごく地に足の付いたアプローチで誠実に怪異との向き合い方を描いているため、かえってその説得力が増すのだろう、面白いことである。エンタメエンタメした作品ではない民俗学系のコミック作品を読んでみたいのなら非常におすすめの一作かと思う。

なろう系コミックス(異世界ファンタジー系)

『鍛冶屋で始める異世界スローライフ』


「なろう系」と分類を設けたが、このジャンルとされるものはほんと激戦区で、いい意味で差別化が進んでいる。そのなかで職業特化型の作品もいろいろあるが、本作はそのスタンスがなかなか好感を持てる一作。

異世界転生に際して「なにかものを作る仕事をしたい」という希望を叶えてもらった主人公が刀鍛冶として森の外れで鍛冶屋として生きていく、という作品だが、主人公が常に自分の力が自身の努力ではなく「チート」であるということを自覚しており、ある種の後ろめたさを感じている、というのはこの手の作品では珍しい。また既刊分の冒頭クライマックスともいえる野生の熊との対決でも「命を奪う」ということと、自身がその命を奪う道具を作る道を選んでいるということから「目をそらさない」という決意を汲み取れる描写は素直に評価したい。

で、ディティール的には獣人、ドワーフ、人間─とこの手の作品にお約束の美少女ハーレム的な構成にも関わらず、あまり生臭い感じがしないのはおそらくコミカライズ担当の方が女性っぽいからだろうか?描線に清潔感があり、かなりカチッとした絵柄に仕上げてらっしゃるのも本作のもつストイックさに合っていて良い。このストイックな絵柄がなろう系独特のチート感を薄くしていることも本作好評価の要因の一つだ。

『めざせ豪華客船!! ~船召喚スキルで異世界リッチライフを手に入れろ~』


なろう系は現在いろいろな職業特化での差別化がある、と先に書いたが、これはありそうでなかった「舟」をテーマにした一作。本作での主人公の転生特典は「舟の召喚」。その能力を使ってほかの冒険者達ではたどり着きづらい他国や土地の特産品を仕入れ、故郷である現代日本の製品すら手に入るという「豪華客船」の獲得を目指す、という一作。「舟」をテーマにしたというも面白いが、本作は珍しくからっきし「戦闘ダメ」タイプの弱々主人公なのも珍しい。ただそのおかげでまわりの強キャラ全部美人のお姉さんというのは逆にモロなろう系作品らしくて潔い(苦笑)。

ただいまのところせっかくの「舟」という特色の部分が貿易にのみ発揮されている感じなので、そこは少しもったいないところ。もっと「舟」がテーマならではの部分が表に出てくるともっとおもしろくなる可能性はあると思う。まあただほっと気楽に読める作品ということでは、この主人公弱々の部分が意外といい味出していて、これはこれでいいのかもしれない(笑)。

『魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか』


最近読んだなかでは個人的にイチオシの作品。タイトル通りの内容だが、この主人公、秀才キャラにありがちないわゆる「めっちゃど天然」タイプのキャラで、それが優秀さの部分が持つイヤミ臭いところをうまく消している。しかしこの作品、なんといっても一番の「あたり」はこのコミカライズ担当の作家さんを引いたこと=すなわちこのギャグと描写のセンスだろう(笑)。一見荒い感じの絵柄で、ギャグシーンなどではさらに簡略化されたキャラがなんとも言えぬ味を醸し出しているんだけども、それが主人公パーティの女性陣が「ガッ!?」と恋バナだと食いついてくるシーンなどでとても威力を発揮しており、それがこの作品全体の空気感を作っている。とはいえ物語的にはけっこうハードボイルドな面もあり、意外なほど死の描写に関して逃げずに描いているのも好印象。パーティ内のマスコットキャラ的な猫人(ミャール)のキャラが居るんだが、それが戦闘シーンだと敵オークの喉を容赦なくかっさばくシーンなどもあり、前述のゆるい描写があるにも関わらず、本作が「冒険譚」であることの重みを保っている。

また例によってパーティ構成は主人公以外女性パーティなのだが(本作はめずらしくそのことに冒頭で一応エクスキューズはしている)、前述のようにそいつらが全員他人の恋バナになると「ガッ!?」と食いついてくる単なる野次馬と化すので、パーティ内でのお色気要素ほぼ皆無(笑)。だが代わりに主人公の幼馴染で鈍感な主人公に一方的に熱を上げている男装のボーイッシュ姫騎士が非常に純で可愛らしく、そこがまたある種の清潔感につながっているのも良い。とにかく本作は試読などでいいので、その独特の(いい意味で)「雑な」絵柄を見てみていただきたい。そこに面白みを感じられる方なら、きっと気に入る一品になるかと思う。


※本作のコミカライズ担当もおそらく女性作家さんだと思う─そこがかなりプラスに働いている感じ

『転生大聖女の異世界のんびり紀行』


これはもう何から何までかわいらしい感じ+ゆるふわな一作。異世界転生モノだが生前母子家庭の家計を支えるため過労死した主人公が女神様の慈悲で転生し、拾われた先の教会で聖女見習いとして修行していく、という作品。で、この主人公ヒルネちゃん、名前の通りほんと眠るのが大好きで、修行で聖句を読むところでも長すぎると見えない魔法で体を支えて居眠りする始末(笑)。そんな彼女をドジっ子系の侍女やキビキビ系のライバル謙親友が支えて─というか巻きこんで、やがて大聖女になっていく。なにしろ大聖女になると専用の教会を持てるのでふわふわの羽布団や人をダメにするクッションでお昼寝し放題の野望が叶うかもしれないのだ(笑)。最新刊では月食の夜に起こった瘴気の蔓延を最後に1人で食い止めた功績でついに大聖女に。そしてより厳しい任地へ派遣される─というところまで来ているのだが、そんなあらすじと関係なく、いつも彼女はゆるふわである(笑)。とにかく癒し系というかただただのんびりもののかわいらしい女の子たちのお話なので、小学校低学年女子とかにおすすめしたいような作品。世知辛い世の中でギスギスしているおっさん・おばはんにも十分な癒やしを分け与えてくれる作品なので、心が疲れている方はぜひ一読して癒やされていただきたい。

『大公妃候補だけど堅実に行こうと思います』


これは異世界転生云々はなく、単純にファンタジー世界観の一作。大公のお妃選びに候補として招集された主人公、しかし主人公はもともとお妃になる気などはなく、貧乏な実家の家計を支えるために職を得たい=女官になることを目標としていた。しかしそんなスタンスでも大公側は構わないということで、城中でのツテを求めてお后候補たちとの共同生活に参加する。そのなかでお后候補たちからいじめを受けていた歳の近いある女性官僚を助けたことから、結果的にお妃選びの裏で進んでいた陰謀に巻き込まれてしまう・・・。

と書いたが、この主人公、爵位だけは高い「万年貧乏侯爵家」の長女なのでバイタリティの塊のようなキャラクター(笑)。家計の足しに内職でたわしを作っては市場で売る、といった庶民も真っ青のハングリー系。とはいえ、爵位持ちの家の人間なのでちゃんとマナーも弁えている。そんな彼女がその持ち前のバイタリティーを活かしてお后候補たちの間で大活躍する─このあたりがギャグマンガ的におもしろく、最近の女性作家さんたちがよく使う意図的に雑な絵柄のピンポイント投入もマッチして面白い、オマケに時々車田作品のような必殺技も飛び出すのはヒミツだw

で、ストレートに行けばそんな彼女が大公妃になりめでたしめでたし・・・と終わるのかと思いきや、そこにこの作品独特のひねりがあり、そこは見事だった。物語としては既刊分のところでちょうど大公妃選びのエピソードは終了しているのであるが、作品自体が好評だったようで続刊されるとのこと。ギャグよりでありつつもハートウォーミングな作品であるので、気になる方は既刊分だけでも読んで見られることをおすすめする。

『指輪の選んだ婚約者』


こちらもハートウォーミングな作品であるが、いい意味であまりひねった作品ではなくストレートなラブロマンスものと言ってよいか。刺繍が大好きで刺繍の模様みたさに一人参加した晩餐会で主人公アウローラは、「氷の騎士」とあだ名される近衛騎士クラヴィスの投げた指輪をぶつけられ「私はこの人を妻とする」と一方的に宣言されてしまう。後日詫びに来たクラヴィスは大公妃の弟でその美貌から女性陣にまとわりつかれ続けていてそのストレスがマックスとなり、ヤケを起こしてそんな行動に出てしまったと。そしてこれを機にしばらくの間偽装婚約をしてくれないかとアウローラに頼みこみ、二人はしばし仮の婚約者として振る舞うこととなるが・・・という感じだが、あとの展開はもうお察しの通り(苦笑)。

基本的にいい意味で大きなひねりもなく、いつの間にか互いに惹かれていく二人をニヨニヨしながら愛でる系の作品かと思うが、サブラインとしては主人公アウローラの刺繍が魔女が魔女と呼ばれる以前の時代の「原始の魔女」と呼ばれる存在の力に似ているという部分が伏線らしい伏線と言えるだろうか。現状はクラヴィスのライバル・ルーミスの横やりが入ったりアウローラが王宮の魔術研究集団「塔」へのスカウトを受けたりという事件などを経てようやく二人が互いの気持ちに気づき、正式な婚約者になる、という比較的スローペースではあるが正統派な展開。全体的に刊行ペースも含めてスローペースだが、それが主人公アウローラのおっとりと鷹揚な感じと相まってこの作品には似合っているのだろう。繰り返しになるが、基本意外とうぶな感じの若い二人のぎこちないロマンスをニヨニヨしながら楽しむ作品。

『王妃になる予定でしたが、偽聖女の汚名を着せられたので逃亡したら、皇太子に溺愛されました。そちらもどうぞお幸せに。』


こちらはある意味すごく正統派な悪役令嬢もののテンプレをやりきっているというか、設定的には「婚約破棄されたけど本物の聖女はやはりこちらでした」系のお手本のような作品。ではそれをなぜわざわざ取り上げるかというと、主人公である聖女エルヴィラまわりの描写が他の作品では見られない面白い部分が多々あったからに他ならない。

この手の作品はヒロインである真の聖女が追放された故に、その国の霊的防御が崩れ、結果的に追放した元婚約者側に因果応報が下る、というのが典型的なテンプレートではあるが、その追放される聖女側の能力はけっこう気楽に行使されるというか、一つの「再現性のある能力・技術=人為的に発揮できる力」として描写をされることが多い。しかし本作は聖女の証明のために「乙女の百合」を育てるというあたりまではテンプレなんだが、自身の危機に際して歴代の聖女たちが夢の中で励ましてくれたり、気を失ったまま超常の力を発揮しレビテーション(空中浮揚)の状態で昏睡から目覚めるなどオカルティックな描写がうまい─というか意外にもこういう神秘性の描写が実は悪役令嬢=聖女ものでされることが驚くほど少なかったので、そこが非常に新鮮だった。ポイントとしては本人のあずかり知らぬところで力が発動される=人為的なものではなくオカルティックな”奇跡”であるという点が重要なのだ。

あとなにげに本作で特筆しておくべきは、物語上の敵役となるバカ王子や偽聖女をはじめ、周辺のキャラクター造形がいい具合にアクセントが付いており、このあたりがけっこううまい。残念ながらこのコミカライズ版はやや表情硬めの描写が多いにも関わらず、そういった部分が浮き彫りになるというのはやはりよほど良いさじ加減で原作が書かれているのだろう。個人的に一人影でで奮闘する脇役の港湾ギルドのおっさんがいるのだが、そのおっさんが大事な生き証人である細工職人の爺さんを助ける時に言い放ったセリフが結構ぐっときた。そんなところも含め、設定的にはテンプレ通りの作品ではあるが、ディティールに色々と見る所ある作品かと思う。

『ロメリア戦記』


こちらはある種「追放系」の作品。勇者パーティの後方・兵站を担っていた勇者の婚約者だった主人公ロメリアは、魔王の討伐完了とともに勇者パーティからキックされ、婚約者としての立場も失い故郷へ失意の帰還をする。しかし彼女は騒乱がこれで終わらないことを分かっており、父に請い、自領内のある辺境地域で独自の軍隊を組織し始める─魔王なきあとも魔族の驚異が消えないことを彼女一人は分かっていたのだ。その彼女が子飼いの軍隊を苦闘しながら育て、かつての旅で出会ったある男との約束を果たすため、一人戦いを続けていく─。原作はもうある程度出ているようだが、このコミカライズ版はまだ数冊しか出ていないので、彼女がようやく子飼いの軍隊を整えたところまでしか話は進んでいない。ただこの建軍の過程が丁寧に描かれていて、そこがタイトルに「戦記」とある由縁の一つだろう。理解者のいない中、一人孤独に戦う彼女が、やがて信頼できる仲間を獲得していく─しかしなんかこの仲間たちがどこまで生きていてくれるのかが心配だ。それでも彼女は戦い続けるのだろうが─。

『月華国奇医伝』


女性向けのこういったファンタジー系の作品ではなぜか中華系の世界観が一つの根強いジャンルとしてあるようで、よく目にはしていた。また「薬師」「薬剤師」系も同じくよく目にするジャンル。ただこれまで意外とそれらに作品として接することがなかったので、じゃあ両方揃っているこれをいっちょ読んでみるべか、ということで読んでみた。

西胡人で医術師である父から医学の知識を学んだ胡葉は、刺客に追われていたこの国の皇太子・景雲をそれとは知らずに助け、重症の従者・時英を外科手術で治療する。その飛び抜けた技術を宮城での権力闘争の武器として使えると判断した景雲は「筋肉フェチ」(笑)の胡葉に「都に来ればたくさん筋肉が見れるぞ!」と誘い、治療費を支払うという名目も兼ねて彼女たちを都へと連れ出す。そして胡葉はその医学の知識を使って人を助けることで結果、景雲の手伝いをすることとなり、景雲にとっても胡葉はその医術だけに限らずなくてはならない人となっていく、という感じ。

架空の中華世界ではあるが科挙や四書五経が出てきたりするのは、史実には載っていない「架空の時代」として理解すればいいのだろう(いわゆる「歴史物」と「時代物」でいうと「時代物」の作品)。医療知識に関しては作者の方の友人の医療関係者の方々から聞き取りしたりとリサーチはされている模様。あとはこの世界設定=中華文明のそれのお家芸である宦官外戚問題的な政治劇のなかで皇太子・景雲がどう動いていくか?それに伴い胡葉も知らず知らずとその動きの中に巻き込まれていく、という流れかと思うが、肝心の胡葉がある種の天然系キャラなので、それをみて景雲のほうが一人頭を悩ます羽目に(苦笑)。巻数がけっこう出ている割には比較的ボリュームの大きめなエピソードが続いたせいか、物語としてはあまり大きく進行はしていない。しかしきっちりと内容は詰まった作品であるので、ある種こちらが期待した通りの中華世界観ファンタジー作品として十分に楽しめた。まだまだ物語がどういう方向に進むのかも見えていない段階なので、続巻に期待。

『最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか』


実は以前にも紹介した作品だが、その物語の性格がかなり変わってきたようなので改めて紹介しておく。元々悪役令嬢系の作品で婚約破棄から元婚約者を見返す、といったテンプレ通りの冒頭に加えて、自らその鉄拳を振るうのがなによりも好きという「撲殺姫」の物語だったが、数巻前からより大きなスケールの戦記物の様相を呈してきている。その理由としてはは国内の二大宗教間の争い、周辺の国々を巻き込んだ謀略─侵略戦争に対する国家防衛戦に舞台がスケールアップしているからに他ならない。また悪役令嬢系には違いないのだが、その手の多くの作品と異なり、周辺を囲むキャラがクセモノかつツワモノ揃い(物理)、そしてよりもよって全員血の気が多い(苦笑)。その分戦闘シーンにも見応えがあって主人公スカーレットがややかすむほど。とは言え、スカーレット自身もこの世界の神から選ばれたもう一人の「聖女」としての役割もクローズアップされてきているので、その面からも当初と様相が違ってきている。数ある女性向けと思われる悪役令嬢系の作品としては屈指の面白さは変わらず─というかブーストされているので、気になる方はぜひこの機会に手にとってみて頂きたいところ。

エロチック系作品

『エロティックXアナボリック』


筋トレによるボディメイキングといえばアニメ化もされた『ダンベル何キロ持てる?』などがあったが、これもその系統に含まれる作品。しかし本作は表面的には明るく飄々としてるキャラたちがその裏に抱えているいろいろな闇の部分が見え隠れして、単純なボディメイキング系の作品とは一線を画している。エロチック系の分類に入れ、タイトルにも「エロティック」とあるが、その向かうところは単純な言葉通りのそれではなく、もっと深くどろどろした部分に根ざしていいるようにも深読みできる。なのでエロチックには違いないがいわゆる青年誌的なストレートで単純なエロとはまた異なる(事実あられもない格好や「エロく見られたい」的なセリフは出てくるが性描写自体は一切ない)。作中にヒロインの過去に拒食症的な時期があったのでは?と匂わせる描写あったり、主人公自身も単純なお気楽デブとは言い切れない知性の鋭さを宿していたり、ある種フェティッシュなエロティシズム作品といえる。もちろんボディメイク系のうんちくマンガとしても当然読めるので、その部分を保険に、このなんとも危うい感じの人間関係の行く末をみつめる─そういった作品だろうか。ヒロインの目指している体型がいわゆる普通の人から見てのわかりやすいタイプの美ではないので、そのあたりも読者を選ぶとは思う。ただどことなく常にスリリングな緊張感のある作品なので、気にいる人は気に入ると言ったタイプの作品だろう。

『イジめてごっこ。』


すっかり市民権を得てしまったSM─「S的」だとか「自分はMで~」みたいな言い回しであるが、本作はどちらかというと正統な意味でのSM、というか被虐願望のある女の子とノーマルな男の子がその距離をどう詰めていくか?という話。掲載誌はどうもサブカル系コミック雑誌とレディコミの間のような雑誌の模様で、白泉社発行の電子書籍系の雑誌らしい。なので上述の『エロティックXアナボリック』と異なり性描写も普通に出てきているが、基本はヒロインの被虐願望故の葛藤とカップルとしてどう向き合っていくのか?というかなり「真面目な」作りになっている。

個人的にはメンタル的な意味でのSM的なものというのは恋愛関係─もっといえば人間関係全てに介在し得るものと理解しているが、こういうガチもんの(肉体の破壊を伴いかねない)被虐願望というのは自分の中に全くそういう要素が皆無のせいか、なかなか理解し難いところがあったのが本作を読んでみようと思ってみた理由の一つだ。まあこのあたり奇しくも作中でどノーマルだった彼氏さんがたまたま職場にいた元SM嬢からレクチャーを受ける、という流れになってきているのでひょっとすると頭の上で理解できるヒントにはなるかもしれない。しかしちょろっと匂わせている部分もあるようだが、こういう志向ってその人の生育環境にも大きく要因があるんではないかなあ、知らんけど(苦笑)。

『こういうのがいい』


こちらも少し一風変わったカップルの作品。互いに束縛系の彼氏・彼女から別れたばかりのネトゲ友達同士が「恋愛はもう当分いいや~」と意気投合、しかし若さゆえ性欲は解消したい、けれどいわゆるセフレとはまた違う・・・という際どいバランスの上に成り立った「フリーフレンド」という関係を結んだことで始まる物語。とはいえ、そのあたり作中の描写見てると「もうこんなんセフレですやん~!?」もっというと「これで恋人じゃない、付き合ってないなんて嘘や~ん!?」と突っ込み入りまくりの間柄ではあるんだけども、当の本人たちの意識の上ではそうはなっていない、と。事実二人が双方ともに別の恋人候補的な存在が現れたときに「そちらが恋人になるならなるでそれで全然OK!」的に嫉妬は感じないという関係性(ただこの時は双方「めんどくさい」的な感情が優先でそのままスルー)。

で、こういう互いを束縛しない、けど人としての相性はいいので友だち付き合い(身体の関係含む)を続けていきたい─という状況を描いてるけど、繰り返しになるがコレ「これで恋人じゃない、付き合ってないなんて嘘や~ん!?」的にはなるのよね。このあたりはほんとなにを持って「付き合っている」「セフレである」あるいは「恋人である」と定義するかによって変わってくると思うのだが、この二人にとってはそのどれもが「そうじゃない」ということなんだろう。あとはこの親密な関係性が物語の進行によってどう変化していくのか?それ次第なところもあり、そこで出る結論がおそらく物語の結末にはなるだろう。

まあ実は作中の関係に一番近いありふれた関係性の呼び方は「夫婦」(子供を育てるという要素を抜きにしたそれ)というのが一番近いような気もするんですけどね。

あと個人的に興味があるのは、ほんとに男から見てこんなに都合の良すぎるさっぱりした性格の性欲持て余した理想の女の子おるんか?というところ(苦笑)。いいキャラではあるけどリアリティ的にはどうなのか?とはいえネトゲ廃人のなかにはこういうタイプいそうな話も聞いたことはあるので、そのあたりぜひ女性側からの感想は聞いてみたい。

小説

『幽剣抄』


エログロバイオレンス伝奇作品の国内第一人者の菊地先生であるが、時代劇との相性はどうかな~?と思って読んでみたら、バッチリハマりにハマっていた一作。本作が表題作となり、以降シリーズ化されたようだが、本作以降の作品ではばらつきは出てくるものの、この『幽剣抄』とシンプルについた最初の一冊はいい意味で表紙イラストから想像するようなベタな感じが薄く、菊地先生のこれまでの持ち味とうまくマッチしていて非常に良かった(なのでシリーズ続編も読もうと思ったわけ)。この手の路線の第一人者といえばなんといっても故・山田風太郎御大だが、ある意味それを現代的にアップデートしているとも言えるかも。菊地先生の作品としては『闇ガード』シリーズが一番好きなんだけども、一部それを彷彿とさせる一編などもあり非常に良かった。この路線は今後も続けていってほしい。

『信長の原理』


同じ作者の『光秀の定理』は全体としてはあまり心動かなかったのだが、その黒幕というか後ろで糸を引いていたのは誰か?的な部分では自分の妄想していた解釈と似た部分がありそこは高く評価してた。

で、本作はその「本能寺の変」周辺の動機周りに関して巷間で言われている諸説に対して、一番「どんぴしゃ!」感が強かった─というかここまで「本能寺」に流れ込むまでの説得力のある作品には初めて出会った。それだけでもこの一作は手に取る価値があると思う。もちろん、そこへ至るまでの信長まわりの描写があればこそだが、それを踏まえても「実際はこんな感じだったのでは?」というリアリティがこれまで読んだどんな作品よりもすごかった。

この点、もちろん人によって感じ方は異なると思うが、読んで損はない一作かと思う。

『公家武者信平ことはじめ』


言葉悪く言うと、ライトノベル的な時代劇─というのが一番しっくり来ると思う。読みやすいしエンタメとして面白い(ただそこが「=軽さ」にもなるので、時代劇に重厚さを求める向きには薄味に感じるとは思う)。この松平信平という特異な立ち位置の人物は実在の人物で、その隙間をうまくふくらませた若い読者向きの「水戸黄門」的な作品と言えるかもしれない。

そして実は江戸時代というのは、現代を生きる我々からすればそれはある意味「異世界」そのものともいえるので、ある意味正しく「異世界ファンタジー」と言えるのかも(笑)。公家と武家のはざまを生きたこの松平信平という人物自体が「なに、そのなろう系主人公!?」とも言えなくもないので、よい着眼点だと思う。細面の美男子で剣も強い、紀州のかわいいお姫様を正室に迎えおしどり夫婦になるあたりもファンタジーとして得点高い(笑)。こういうエンタメに振り切った作品が時代ものへのいいゲートウェイとなってくれるといいな。

※ちなみにこのシリーズは結構長く続いているようで、時系列的に一番昔に当たる旧作を「ことはじめ」として加筆・一部リライト?で刊行中で、自分はそちらから読み始めた。「ことはじめ」=既刊分のリライトはまだ完結していないが、それ以降のシリーズにあたる『公家武者信平』自体はいちおう既に完結しているようである。

『准教授高槻彰良の推察』


こちらは知らなかったがTVドラマ化もされていた作品の模様。主人公が民俗学准教授というところに引かれて読んでみたが、あまりそっち方面はがっつり目ではなく、あくまでも作品の世界観の構成要素として見るほうが良さげ。とはいえ後半にいく連れてそういう実際の「怪異」要素が現実のものとして描写はされてくる。

しかし本作は─その文体もあるんだろうが─良くも悪くも軽め。そう、貶めて言うわけでなく、この作品もある種のライトノベル─それもややBL寄り、として読むのが一番正確な気がする。男子大学生が主人公の割に、男性性の部分であまりリアリティ感じないな~と思ったのはそういう側面もあるからだろう。そういう意味でも良くも悪くも「ファンタジーノベル」だと思う、昔で言うならコバルト文庫とかソノラマ文庫とかで展開されるような。それはそれで歴史のあるレーベル、ジャンルなので、その正統な後継がこういうところで芽吹いている、というのはそれはそれで祝福されるべきことかと思う。

映像作品

『ムーンフォール』

あまり公開時話題になってなかったようで自分も今回アマプラで初めてみた作品。賛否でいうと否がけっこうある作品のようだが自分にはとても楽しめた。月がいわゆる重力異常で地球へ落ちてくるという災害パニック系の映画なんだが、月に関して昔からある陰謀論的設定をうまく使ったSF映画にもなっている。まずこの映画の見所はなんと言ってもそのスケール感のでかい画ヅラの強力さだ。画面いっぱいに広がる水平線、その先に月がありえないほど近づいてくるなど、その構図と画面づくりの強さ、それを堪能するための映画と言って過言ではない。そういう意味ではこれを映画館の大きな画面で見れなかったのは素直に悔しく感じる。また物語的にもエンタメ作品よりなのでガバな部分あるにはあるんだが、作中登場するアマチュア天文オタクまわりの描写がツボに入ってしまい、おまけに自分の一番弱いタイプの”活躍”で決めてくれるので、ここは素直に涙した(自己犠牲モノにめちゃくちゃ涙腺弱いんすよ・・・)。あとこのあたりはハリウッド映画のお約束的な家族大事・家族大切エピソード満載の映画でもあるが、こういう未曾有の大災害物ではむしろそれは自然に感じるので、ここは逆にポリコレ的な臭みが消えて良かったのではないか。とにかくこの作品はアトラクション的にそのスケール感のあるビジュアルだけでも一見の価値がある。可能な限り大きな画面での視聴をおすすめする。

『シン・ウルトラマン』

思えば今年唯一劇場まで観に行った作品(『ブレットトレイン』も見に行きたかった!)言わずとしれたシンゴジに続く庵野組による特撮リメイク作品。現在アマプラでも配信中なので落ち着いて見直してみたが、いろいろと欠けている部分はあるものの、その割り切りが功を奏してリズムよく最後まで楽しく見れる作品。

当初言われていたカラータイマーなしの違和感も逆に体色の変化などで表現されていたりでより良い方向で異物感が増し、ウルトラマンという見慣れた存在が一気に新鮮で真新しい存在となった。ドラマ的な面ではよく言われるように「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」に対するなぜそんなに好きになったのか?の部分の描写が弱いのは事実で、そこは賛否あってしかりかと思う。ただ冒頭の数体の怪獣の駆除シーンを駆け足でやったところからも分かるように「これはそういう映画なんですよ」というある種のお約束のもと見るべき作品、というのが正解なんだろう。そう理解すると必要最低限の5エピソードで観客を飽きさせず、最後の”あの敵”にビジュアル面での新鮮な驚きもあり、よいエンタメ作品だったと言っていいかと。ただ最終戦のある特殊空間から脱出するシーンのビジュアルだけはなんとかならんかったのか!?と(苦笑)。みれる機会のある方は観て損のない一品。

『リコリスリコイル』

今年の夏シーズンでおそらく一番人気のあった作品。設定だけ並べると女の子の殺し屋たちが下町でカフェを営み・・・というベタベタな作品だが、演出力と突出した声優さんたちの演技力で唯一無二の作品になったという素晴らしいケース。オリジナル作品ということで原作がないところが味方したとは言えかなりの博打を打って見事リターンをもぎ取ったというところか。それもそのはずwebラジオやインタービュー媒体見るとかなりアドリブと言うか声優さんの技量・演技力をうまく使っており(一部それに作画の方を合わせた?)、それがこのキャラクターの生々しさにつながったというのがよく分かる。多々指摘があったように細かい部分の設定や背景設定に関してはかなりガバガバ感があるのも事実─しかし彼女たちの周辺の小さな限られた空間での芝居という、視聴者の視点がいちばん集中するところに全振りしたことで、作品として力強い生命力を得た、ということだろう、間違ってないと思う。なによりスタッフの遊び心がそこかしこで感じられるのがいい。加えて必ずドラマ部分にかかって始まるエンディングというのも久々で良かった(その入りの部分が明るいので、後半のシリアスな局面でも「大丈夫、きっとなんとかなる!」という気分で見れたのも大きい)。かなり好評でおそらく続編が制作されるだろうとおもうが、それだけの勢いはあった作品。

※余談:本編もうひとつ「おっ」と思ったのは世間的に喧しいLGBT的な描写をものすごく自然にやったこと─これは主人公の女の子たち二人ではなく、保護者的立場にある店長(ミカ・男性)まわりの描写。大げさに錦の御旗のように正義を掲げずとも自然な描写のほうがよほど理解が深まる、ということを示していて非常に皮肉の効いた、批評性すら感じる演出だった。

『ぼっちザ・ロック』

いわゆる「きらら系」と呼ばれる日常系媒体のコミックが原作だが、本作はそれをいい具合に完骨堕胎しており、日常系作品のゆるふわなところは残しつつも、実写を一部取り入れた画作りなどかなり攻めた作品となっている。でタイトルにあるように引きこもり気味のコミュ障ぼっちがそこから脱出するためギターを死ぬほど練習し・・・という内容の作品なんだが、特筆すべきはその楽器、ライブハウスまわりの描写の正確さ。下北の著名なライブハウス下北沢SHELTERが全面協力しているようで、ライブハウス内での挙動やその独特の文化をきちっと映像化しており、楽器周りに関してもかなり正確に(プレイスタイルや実際に弾いたことがないと分かりづらい挙動など)描写している─ここだけでも大きな意義があると思う。そしておっさんの自分などは主人公・ぼっちちゃんのこれでもか!と言わんばかりのくどいほどのボッチ故の痛ムーブの配分にやや過剰感を感じたのだが、若い世代などにはこのあたりも概ね好評だったようだ。最終話まで目を通してこれを書いているが、そういう要素とうまく絡めた学祭ライブでのいきなりダイブなどは面白かった。またライブ描写としては別記事で貼ったこちら(8話のライブシーン)が最終回か!?と見間違わんばかりのかっこよさだったが、最終回での機材トラブルからの友人の目いっぱいのフォロー→ボトルネック奏法の部分なども素直に燃える熱い展開だった。

国内外問わずかなり好評だったようで、下馬評を覆してこの激戦の2022年秋シーズンのトップを争う作品だったというのは言ってよいだろう。前述のようにぼっち描写がくどく感じたりもするので万人向けではないと思うが、音楽周り─特にライブハウスなどに足繁く通ったことのある方には一見をおすすめする。

『水星の魔女』

年内に一旦放送終了の予定が、放送局の番組編成や制作の問題で年明け終了にずれ込んだので取り上げずにおこうかと思ったが、いちおう取り上げておく。

いわゆる「宇宙世紀モノ」ではない方のガンダム作品で、世間一般に言われる「(めんどくさい)ガノタ」向けではなく、若い世代の新規層を取り込みたいというのが強く感じられる野心作。なにしろシリーズ初?の女性主人公に加えて、第一話が女の子同士のカップル成立からの「よろしくね、花婿さん」というセリフで〆られていたり、決闘で全てを決める学園モノであり、学内起業エピソードあり、主役とその彼女の乗るガンダムがかなり禍々しい存在かもということを匂わせたりと、いろんな要素てんこ盛り。そしてそんなてんこ盛りの設定に負けずに人間関係もかなり曇った感じのそれが多いが、ここは逆に伝統的なガンダムシリーズらしいと言えるか(苦笑)。

その分、実はガンダムと付きながら、意外と戦闘シーンの比率は多くなく、ガンプラを売る、というビジネスモデルからすると意外な感じもするのだが、ここは最近バンダイが力を入れている美少女プラモデルによる代替ができるかのテストベット作品でもあるのかもしれない。それもあってか、人間ドラマの方はみっちりと密度の濃いキャラとシナリオが用意されていたようで、毎回放送直後ではかなりの比率でTwitterのトレンド上位に上がってきている。そういう意味では、いままでのところ本作品は十分結果を出している作品といえるだろう。

個人的にも戦闘だけ多くて世界観や人間ドラマがペラペラなのはノーサンキューなので、この方針は歓迎したいのだが、どうもまだ未見の数話のタイムライン追っているとヒロイン二人の行き違いの部分などもクローズアップされたりもするようなので、そこはあまり惚れた腫れたの方へとウェイトを置きすぎることは避けてほしいという気分はあるかな。やはりガンダムシリーズはその大きな世界観というか政治ドラマ的な側面も魅力の一つではあると思うので。幸いその点は主人公たちの親側が担ってくれそうなので、現時点ではあまり心配していない。いまのところドラマ的には主役であるガンダムに秘められた謎の部分が中心となっていて、ある種の謎解き・サスペンスドラマ的な部分が物語の核心になっていると思うが、できればロボットものならではの「爽快な」活劇部分も今後はある程度見せてほしいところ。(意訳:個人的に「ボブ」期待してるぞ、頑張れw)

『チェンソーマン』

2022年秋期は話題になるアニメ作品が目白押しでまさに「大激戦」という感じの過酷なシーズンだったかと思うが、その中でも事前の下馬評で突出していたのがこの作品。以前に原作を取り上げた際もその新規性について触れたが、それもあって制作会社側もかなり力を入れているという話だった。しかしフタを開けてみると、残念ながらなんとも微妙な評価に落ち着く作品となってしまった(これは自分だけではなく一般的な評価も同じといって良いと思う)。

作画に関しては全12話ほぼ乱れることなく劇場版かと思えるほどのハイクオリティを維持していたし、色彩設計も見事、話題になった全話個別アーティストによる別エンディングというのも企画として素晴らしかった。ではなぜそんな微妙な評価に落ち着かざるを得なかったかというと、やはりフィルムとしてのリズムの悪さ、これに尽きると思う。とにかく「ここはこう行くだろう」というフィルムとしてのリズムがことごとく外される、加えて鬼滅の刃などの壮絶な戦闘シーンに慣れた視聴者には、本作の引き構図を多用したメリハリの薄い(逆に言うと写実的には正確な)戦闘シーンは迫力に欠ける回が多く、原作にあるような「チェンソーマンはめちゃくちゃでなければいけないの」というところを期待していた原作組からもかなり渋めの評価を受けざるを得なかったようだ。加えてその写実的な演出方針からか、声優さんたちも徹底して抑えた演技を求められたようで、この点かなり同情する。監督された方は本作が初監督だったようで、にもかかわらずこんなビックタイトルを任されたのは同情を禁じ得ないが、その演出方針はこの作品のもつ性格と根本的にミスマッチだったのは言わざるをえないだろう。その点で監督を責める声も聞こえるが、ここはやはり監督ご自身ではなくそういう方向性の人を監督として抜粋したプロデューサー陣の判断ミスが批判されてしかるべきかと。

MAPPAという会社は確か片渕須直監督の名作『この世界の片隅に』を制作するために作られたスタジオだったかと記憶しているが、その後創業者の方は現場から退いて現行のMAPPAがあるようだ。『この世界の~』が非常に写実的で緻密な描写で成功した作品だったが、代替わりしたとはいえ、そういうスタジオとしての来歴が本作においてはマイナスに働いてしまったということかなあ・・・。最終回のエンディングでは原作でのこの後のシーンをにおわせるカットは入れられていたので、何らかの形で続編は制作されることになると思うが、是非今回のつまづきを糧として、続編はより良い作品にしてほしいと思う。

『アキバ冥途戦争』

いわゆる”萌え声”がかなり苦手な自分が最後まで見ざるを得なかったほど面白かった作品。個人的には今期No1の作品だった。キービジュアルやタイトルからメイドものとは分かると思うが、この世界線のメイドさんは銃をぶっ放し生命(タマ)の取り合いをするメイドさんだ(苦笑)。こう書くと単なるギャグアニメ?と思われるかもしれないが、前半はともかく後半へ行けば行くほどシリアスさが異様に増していく─ただそのシリアスさの中にもミスマッチさからくるギャグ描写がところどころにぶっ込まれており、真面目に涙するシーンで思わず「ふぇw」と変な笑いも同時に漏れてしまうという、感情の置き場に困る─感情がよく迷子になる怪作だったといっていいだろう。スタッフ、キャストのインタビューも読んだが、演者側も「うまく言葉では説明できない」というコメントありつつも作品自体に惚れ込んでいる様子は見て取れ、また企画側は「100人に1人でもささればいい」的な確信犯だった模様─しかしその言葉通り刺さる人にはかなり深く刺さる作品となっていた。好き嫌いはっきり分かれる作品だと思うが、こういう狂気(褒め言葉)を貫き通す制作陣がいてくれたことに個人的には最大限の謝辞を述べたい。奇しくも2022年秋期で一番の期待作だったチェンソーマンがありきたりなところに落ち着き、文字通りダークホースだった本作が以外なところで話題になっているのはこの「狂気」の有無だったのではないか?Cygames系の作品でもあるため無料で見れる視聴チャンネルが非常に限られるのでハードル高いが、見る機会のある方はぜひ一度ご覧になってみていただきたい作品。またOP/EDも素晴らしかった(そちらに関しては別記事にて)

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