けものフレンズ/たつき 監督

標準

ちまたでの話題作ですな。ウチはテレビがないのでニコ生の11話までの一挙上映で5~11話をみて、先月実家に所用で返っていた折に最終話をリアルタイムで見、見れてなかった1~4話をamazonで有料視聴という変則技でクリアw

いや、それだけの値打ちのある作品でした。当初そのゆるさとグラフィックのしょぼさで期待されてなかったが故にダークホース的な扱いだったとのことだけども、いろんな意味で原点回帰とパラダイムシフトを久々にもたらした作品だと思う。「まどマギ以来」という評が一部から出るのも分かる気がする。
(てかまどかからもう6年もたつの!?:泣)


ストーリーとしては動物が人間化した「フレンズ」という存在のいる世界にあらわれた「カバンちゃん」という少女(少年?)が最初に出会ったサーバルちゃんと「自分は何の動物が元になったフレンズなのか?」を探すために一緒に旅をするというロードムービー形式。

よく言われるようにこのサーバルちゃんの緩すぎるセリフのせいで「知能が低下するw」とか「癒し系アニメ」というのが当初の評だったようだが、話数を重ねるにつれて、そこかしこにちりばめられた不穏な空気が物語を最終話までうまく引っ張る伏線となっていて、前述の印象とは異なり考察もできるかなり作りこまれた作品というのがその正体だった。

それもそのはず本作品はフルCGということもあってか、通常のアニメーション作品のおよそ1/10程度の予算とかなりの少人数で制作された作品らしい。一説ではバスのタイヤの回転すらCGを作る予算がなかったとかもどこかで読んだので、その規模の小ささが想像できる。

にもかかわらずここまで大ヒットになったのはやはり製作者側の熱意と、その熱意が制作のハンドリングにダイレクトに伝わりやすい少人数での制作というのが全部うまくはまったということだろう。これも伝聞だがアフレコもプレスコに近い状態もあったと聞くので、なにからなにまでこれまでの常識からは規格外ですわな、普通なら「できない」と諦められるような状態で制作された作品といえるだろう。

で、そこを支えたのがおそらくフルCGと思われる画作り。確かに昨今のおそらく頭のおかしいレベルのハイエンドな作画を当たり前に見ている層からすると「ありえない!」と言われかねない低レベル(に見える)クオリティともいえるんだが、逆にこれがシナリオとのバランスが良かったというか、むしろそういったハイクオリティ・高解像度でなかったことが本作品では味方したように思う。そう、動物の擬人化、それも美少女ばかりと書くともう「ダメ~なヤツ向けの作品」な感じぷんぷんかと思うが、本作はそこをこのCGのクオリティの低さ(に一見見える)が救っている。いわゆる「萌え絵」的な文法から微妙に外れているおかげで、そういったもろオタク向け作品のもつある種の「イヤな感じ」から解放されているのである。

そしてそれが本作の肝であるハートフルなシナリオやセリフをより活かす方向へ働いたといえばよいか。(要は「いわゆるオタク的な要素」への媚びが薄いのである)

上述のように当初は「知能が下がるw」「癒し系アニメ」との評が前面に出ていたようだが、実はそれもそのはずで、本作でのそういった要素のシンボルともいえるサーバルちゃん、彼女の言動は基本的に「全肯定・フルポジティブ」といってもいい。そして、これってよく考えてみると鬱治療などの際に見かけるアファメーション的なアプローチと似ている(ただし、この「アファメーション」という単語は昨今ではスピリチュアル系の勢力に都合よく蚕食されつつあるようなのでちょっと注意が必要である)。このあたりは作品の柱として意図的に据えられているようで、それは主題歌の中の有名なワンフレーズ「けものはいてもノケモノはいない」あたりからも察せられる。「やさしさ」が作品世界の中心にきちっと設定されているということだろうな。

※主題歌の作曲家ご本人によるバージョン。こっちのほうが好きなのでこっち貼っておくw

また登場する動物の生態へのリサーチもきちっとされているらしいことに加え、話中で動物園の現役の飼育係の解説が流れたりとこのあたりも誠実な作り(ただ希少種?で国内に該当の飼育員さんでコメント取れそうになかったケースだと海外の研究者や飼育員の方のそれをぶっぱなし気味にほりこんできたのには笑ったがw)
※比較的動物の生態をしっかりリサーチして作られているゆえかこういったMADも作られたようだw

こういった作りの上で、本作は最初に書いたようにカバンちゃんとサーバルちゃん二人が自身のルーツを探すためのロードムービーとなっていて、その旅路の最後にたちはだかる大きな試練を彼女ら二人は互いを思いやり、互いから教わった知識や気持ちで潜り抜けていく。そしてそこに助けに現れる旅の途中で出会った仲間たち総出演という王道な演出!(ニュースにもなっていたアーティストの星野源氏が言っていたのはここのことですな)。そういう何気に王道な作りの作品をこれまでの常識ではありえない制作体制で作り切ったというのが本作のもたらした大きなパラダイムシフトだろう。

また本作のヒットはそういったこれまでの常識をいろいろと覆したこともあるだろうが、個人的には上述のような「やさしさ」とは相反する「死の臭い」とでもいうべきものがそこかしこに見え隠れしていることも重要だと思う。実はこれまでにこういったかわいらしい・やわらかい感じの作品で社会的に大きくヒットしたものの中には、確実にこういう「死を感じさせる」系譜というものがあって、実は本作もそういう要素が込められていたことが大きいのではないか。この「死を感じさせる」系譜モノの具体例をいくつか挙げておくと「泳げたいやき君」「団子三兄弟」(どちらも食べられる=死ぬことが決定づけられている)、冒頭にあげたまどマギなんかもそうですわな(死を宿命づけられている)。

ただまあこんな理屈をこねずとも、本作は見ているだけでゆるーい感じでいい具合に脱力できる・リラックスできる作品。かつけっしてちまたで評判にされるようなオタク向け用の作品ではなく、どちらかというと小さなお子さんのいるご家庭なら日曜日の朝にでも家族全員でみられるような良作だ。
(そういう意味では続編があるならぜひそういった時間帯でやってほしいと思う)

いろいろと常識を覆してこの結果を出した作品なので、いい意味でもこれからいろんなものをひっくり返していってほしいと思う。

※ちなみに現時点でも本作品は以下のページから視聴できる模様。気になった方はご覧になってみてはいかが?(2017/4/26現在)
無料だがユーザー登録必要な模様

あにてれ」(https://ch.ani.tv/titles/289

で、本作のDVD・ブルーレイ・・・この時点で全12話中2話分収録した第1巻だけで12万部ですってよ・・・・・。
単価がやや安めの設定ゆえのようにも見えるが、それにしてもかなりあり得ない数字・・・。また舞台化や東武動物公園とのコラボなど、ヒット作ならではの派生展開、ほかにも期間限定の専門ショップはグッズがあっという間に売り切れとか旬の作品ならではの勢い・・・凄いなあ。

けものフレンズBD付オフィシャルガイドブック (1)
KADOKAWA (2017-03-25)
売り上げランキング: 3

けものフレンズ/たつき 監督」への6件のフィードバック

  1. 飲マスク

    最近見終わったもので一年以上前の記事にコメント失礼します。

    まずやっぱ嫌なことから言ってしまうと、角川は「金の亡者の割に金儲け下手だな」と。
    具体的なこと踏み込むと長くなるのでここまでにしときますが…

    で、作品内容について触れさせてもらうと、このアニメが良かったのはもう何度も言われてる通り「昨今の作品(アニメに限らず)に逆に見られないようなオーソドックスな内容」にあると思います。
    物凄く欲張りなことを言えば90年代以前の手描き作画風の絵だったらもっと素晴らかったと思いますが、そこまでいくと単なる懐古主義からくる欲張りにもなっちゃいますねw
    元アプリと絡めてポストアポカリプス的な設定にも手を伸ばそうと思えばできた気もしますが、それをあえてやらずに(尺や予算の都合で「出来ずに」かもしれませんが)主役三者と行く先で出会うフレンズさんとの交流に注力したのも結果的に良かったとかと。

    話変わりますが、バイストンウェルサーガではリーンの翼は観たり読んだりされたでしょうか?
    というのもけもフレとリーンの翼の二次創作で以下の動画のクォリティが大変高かったため、知っていたら楽しめるだろうなと思って紹介したい次第でした。
    http://www.nicovideo.jp/mylist/59548996

  2. niseikkyu

    久しぶりのコメントありがとうございます。お元気でいらっしゃいましたか?(^^)

    本作はほんとこのケチの付き方がもったいなかったですね。
    知人に一時期カドカワ周辺で仕事されてた方いたのでちょろっと聞いてみたのですが、正確なところはわからずですが、一部の人間が手柄にしたくて首突っ込んだんだろうとは言ってました。
    (ただそれだけでもないような感じもいろんな噂話を聴いているとしてしまいますねえ・・・)

    >「昨今の作品(アニメに限らず)に逆に見られないようなオーソドックスな内容」
    そうですね。100%旧来と同じかといえばそうでもないとは思いますが、「王道な」という意味ではすごくオーソドックスで、ご指摘の通りこのタイミングでこれを持ってきた意味はすごく大きかったと思います。
    (夏休みに子供時間帯での再放送が大好評だったのも、ある意味その証明かと)

    >物凄く欲張りなことを言えば90年代以前の手描き作画風の絵だったらもっと
    ここはすごくむつかしいところですね(笑)。想定されている絵柄にもよると思うんですが、個人的にはこの(一見低レベルに見える)CGでのキャラクターがこの作品を救ったところもあると思うんですよ。

    どういうことかというと、各キャラのベースデザイン(原作・吉崎氏のそれ)だと、(想定されている手描き調にもよりますが)おそらくセルルックな旧来の絵でやると必ず「性的な要素」のほうが目立つ結果になっていたんじゃないかと。

    なぜなら本作のキャラデザは、世間でいうところの「キモイオタクの考える典型的デザイン」ともとられかねない要素を潜在的に色濃く持ってはいるので。(登場キャラが全員女の子という点でお察しですよねー商業的な保険の意味もあるのでしょうが)

    しかし本編ではこのシーンによってはすごく無機的にさえ見えてしまいかねないCGベースのキャラだったからこそ、そういう生臭さを消毒し、へんに「大きいお友だち」の琴線を刺激せず、11話的な物語のクライマックスを物語としてクリアに提示できたんじゃないかと。自分はそう考えています。

    >ポストアポカリプス的な設定
    元アプリのほうは残念ながら内容知らないのですが、このポスト・アポカリプス的な要素・・・というのが案外今回もめたことの隠れた原因かもしれないですね、原作吉崎氏と監督たつき氏対立説をとるならですが。
    (原案からそこ強調だったばあいは的外れもいいとこなのでごめんなさい A^^;)

    貼っていただいたリンクありがとうございます。
    リーンの翼はもととなった原作と、数年前のアニメ化のやつは少し前にプライムビデオで見たところでしたので、時間のある時に見させていただきます。

    しかしリーンとオーラ―バトラー戦記とはつながらないような気がするんですが、パラレルなんですかね。

    久々のコメントありがとうございました。
    お暇な時はまた気軽にお越しください。

  3. 飲マスク

    お返事ありがとうございます。

    ちょっと説明足らなくてすまなかったのですが、手描きの方が良かったというのは主に背景のことでした。
    昔の手描きアニメってそこまで作画が優れていない「週一のお子様タイム(大体16~20時か土日朝くらい)アニメ」でも、木々・遺跡・山・岩石とこういった自然物や古い物に関しては今よりもずっと絵が綺麗でノスタルジックでした。
    ただ一応フォローしときますと機械やアクションシーンの動きは今風のCGアニメの方が優れていると思います。
    ぶっちゃけクソアニメとして有名になってしまったガンダム鉄血のオルフェンズですが、総合的にはともかくMSのアクションシーンは90年代以前のガンダムとは雲泥の差と言えるほど優れてましたし。
    どっちも一長一短ではありますが、このアニメに関しては昔風の手描き背景描写だったらなお良かったと思った次第です。

    元アプリの踏み込んだ内容は私も知らないのですが「ぶっちゃけ失敗に終わったソシャゲ」という周知の事実から
    「人がいなくなって遺跡化したアニメ版のジャパリパーク≒打ち切られたアプリのメタファー」
    なんて説もあったりします。
    またアプリ時代もコラボカフェイベントやってて案の定閑古鳥が鳴いてたらしいのですが、アルパカさんのジャパリカフェも全然来ないねぇ~だったのも自虐ネタだったんじゃないかなぁ、って思います(笑)
    とにもかくにもアニメの前に「色々あったらしい」のは確かですが、結果的にそこまで踏み込まなかったのが話が無駄に広がらずに済んだんじゃないかと思います。
    設定を欲張り過ぎたせいで失敗した作品はかなりありますからねぇ~

    バイストンウェルサーガについてはソース忘れてしまいましたが、リーンの翼のラストでパラレルワールドが発生したらしいです。
    ・迫水死ぬ(旧小説版)→ダンバインやオーラバトラー戦記の世界
    ・迫水バイストンウェルに生還する(小説完全版前編)→小説完全版後編・OVA
    となるそうですね。

  4. niseikkyu

    わざわざ補足いただきありがとうございました。

    >手描きの方が良かったというのは主に背景のことでした。
    ああ、これは納得ですね。いい意味で解像度低いのでやわらかくみえるというか、ある意味そういったコンテンツのもう一つの源流である絵本とか児童図書の系譜がそういったところに残っていた時代なのかもしれません。

    オルフェンズは良くも悪くも話題になっていたので観よう観ようと思っているうちにAmazonプライムの無料視聴から外れてしまったのでどうしたもんかと思案中です(苦笑)。メカに関してはもうCGありきでないとデザイン的にアニメーターさん死亡必至案件でしょうしね。ただThe Origin的な方向性のメカCGへ行くのは個人的にはご勘弁願いところです。

    前回ご指摘いただいたポスト・アポカリプス的な部分に関しては(もしアニメ以前はそういう設定がなかったのなら)ひょっとすると原作者の方がそういう方向性強調するのを嫌われたのかな、という気がしないでもないです。そういう暗い要素は排除して徹底的に明るく気楽にやりたかったというか(いわゆる方向性の違いというやつでしょうか)

    ただ幼児向け作品でも爆発的にヒットする例を見ると、そういうある種「死の影」が見え隠れする物のほうが大ヒットしてるのもご存知の通りかと(泳げたいやきくん→最後食べられる、団子三兄弟→最初から串刺し)

    ご紹介いただいた動画一部だけまず見させていただきましたが、サコミズ王ずるいですね、全部持ってかれるwww

  5. 飲マスク

    ttp://www.nicovideo.jp/mylist/59548996
    ご存知かもしれませんが、フレンズの翼はついに最終回を迎えました。
    3週間後にもなって今更?かもしれませんが、やっぱ今日と言う日に、ってことで…

  6. niseikkyu

    教えていただきありがとうございます。すっかり見落としておりました。終戦の日・・・ということでサコミズ王の御霊は得心されるのでありましょうかねえ・・・。完結ということなので時間とってまとめて観てみようと思います。ただしサコミズ王の狙ってないボケ・ツッコミがパワフルすぎてこちらの体力持つか危ういところですがw最近はすっかりMMDも見れておりませぬ(--;)

コメントを残す