【レビュー】『ポメロメコ』劇団イヌカレー

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まどマギでの一連の魔女関連のデザインを手がけた劇団イヌカレー、画集のようなものが出ればなあとずっと待ち望んでいたが、なんと嬉しいことに一冊のマンガ作品が!
あのダークな世界観をより煮詰めた純度100%の劇団イヌカレーワールド、もう素敵すぎる・・・!

『ポメロメコ (WANI MAGAZINE COMICS)』


ポメロメコ (WANI MAGAZINE COMICS)


三つ編みでつながれた二人の少女、ポメロとロメコはカエル工。仕事を終えた二人が工場を出るとそこには二人が以前見捨てた猫がネズミをくわえ「この食用ネズミの最後の願いを聴いてもらいに来たのです」と現れる。ネズミは「どうか床下の王国を救ってください」というと猫に吞まれてしまった・・・。「ワ タ シ ら の 家 の 床 下 に こ ん な 場 所 が あ っ た な ん て 。」二人は成り行きで床下の王国を救いに行くことになる。


少し前に浅草橋の画廊で開催されていた個展『床下展』も見てきたが、この「床下」の世界が近年のイヌカレーのテーマの一つのようである。『床下展』も一応ストーリー的なものを追えるようにはなっていたが、コラージュを中心とした展示ということもあって、その物語性もコラージュのようにツギハギ的であった。

それに対して本作は一冊の作品としてまとまっていることからも分かるように、非常にストーリー性に富んだコミックとしても絵本としても読めるイヌカレーワールドだ。初めてイヌカレー作品に興味を持たれた方にはもってこいの一冊だろう。

主人公の二人の女の子ポメロとロメコは三つ編みでつながれ、いつもお餅をこねりここねりこしてカエルを作るカエル工。その二人の前に以前拾わなかった猫が現れ復讐されるかと思いきや、その猫・ドレンレンロドノフに導かれ、二人は床下の王国へと旅立つのだ。

作品の方向性としては大筋では「不思議の国のアリス」を思い出させもするが、当然それだけではなく、「なまりの兵隊」的な世界や「ワモラヲ スクッテクダサイ!」とモ モ モ モ と湧いて出てくるどこか日本昔話にも出てきそうなお餅の軍団などやはり独特のイヌカレーワールド。そして前述のように本作では比較的明快なストーリーラインがあり、そのダークさ・物悲しさ、ほの暗いラストなど、個人的に大絶賛である。ある意味本作はイヌカレー版『半神』的なところもあるのかもしれない。

作画方法で多用されているであろうコラージュのみならず、その細かなディティールを追いかけていくと、決してそれが思い付きで選ばれているのではなく、かなり意味的な構造をもって配置されているように思える。なので読めば読むほど発見があるタイプの作品で、今月月初に神田での個展で単行本を購入してからこの程度の文章を起こすのにも時間を必要とした。

読む人を選ぶと思うが、ダークファンタジーや童話・絵本―とくにグリムの原典やオリジナルの昔話に備わっているほの暗い陰影―そのともすればデモーニッシュな感じが好きな方にはたまらない作品だろう。また印刷物としてもいろいろと凝った作りとなっており、単行本・・・というよりはやはり画集やこれ単体で「作品」と理解したほうが正確だろう。しかし今の日本の世の中でこういうタイプの作家性をもったアーティストが居てくれるというのはほんと奇跡的なことかと思う。

やっぱりこの方の作品はしばらく追い続けなければいけないようだ。


※個人的には子供の願いを聞いてやろうとオヤコカエルを買いに来るネズミ婦人(お母さんネズミ)が物悲しくて印象的だった。

『ポメロメコ (WANI MAGAZINE COMICS)』


ポメロメコ (WANI MAGAZINE COMICS)









※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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