シン・ゴジラ/庵野秀明 監督

標準

2度目を見てからレビューしようと思ってほっておいたらいつの間にかもうメディアが発売されてるとは・・・。

昨年のロードショーの段階でちゃんと見ていて、先月のIMAX限定再上映の際に2度目は観にいっていた。で、やはり2回見ても面白かったのでいい作品ということは間違いないと思う。

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組
東宝 (2017-03-22)
売り上げランキング: 3


ちまたではいろんな論評がされているが、本作が単純に映画として面白い理由はある種のドキュメント映画的な作りであることが大きい。もちろん細かいネタの盛り込み方や庵野監督他作品とのリンクなどマニアの方に受ける要素もあるんだろうが、そこはディティールに過ぎないといってよいのではないか。

要は最初に唯一のフィクションとしての突飛な状況が「前提」としてぽんと観客の前に提示され、その「前提」=状況を作中でどう解決していくか?というのをねちっこく追った作りである、というのがこの作品の吸引力の根底にあるように思う。もちろんそのためにはその状況を解決していく描写にある種の現実感がなければならないのだが、そのための執拗なまでの取材、それをより活かすための緻密なカット割り、そして次から次へと現れる状況に徹底的なまでに押し流されていくという情報量を持った脚本。これらが相互に作用してあの長い尺をクライマックスまで観客を飽きさせずに押し流してゆく。

で、その先にあるクライマックス―在来線爆弾が出てくるあたり-からようやくエンターテイメント作品になるというか、カタルシスを得るような作りになっていると自分は見た(このあたりでBGMの曲調も変わっているように記憶している)。こういった構成はある種のエンタメの王道でもあり、クライマクスまではドキュメント的な手法で運んでゆき、クライマックスでエンタメするといった感じだろうか―どちらにせようまいフィルム運びだと思う。

このドキュメント+エンタメ的な作りというのはどちらも庵野監督にとってはたぶん得意・・・というか向いているスタイルなんだろうな(というかコレ、昔の空想科学ドラマとしての特撮=庵野監督の原点そのもののスタイルといえるのかもしれないがw)

盛り上がりはちゃんとエンタメしている―こう書くと最後のポンプ車はエンタメ的にどうよ?と言われる方もいるかもしれないが、このあたりが311を通過してきた日本の現状を反映してのものだというのは言うまでもないだろう。よく言われるようにゴジラ作品というのはその時代時代を宿す憑代でもあるのだから。ただ本作はこういった「日本ならでは」の状況をふんだんに「前提」として盛り込んでいるために、そういった「前提」を共有していない人や共有し得ない海外の方には評判は悪いだろうとは思う。本作の大部分は密室での政治的な会話劇だが、普段からこういった手続き主義に終始する政治へのいら立ちを持ちえない人にはこのあたりの構成はつまらない会議を延々とやっているだけにしか感じられないだろう。そういう隔靴掻痒感の有無が本作品の評価には大きく関わっている。

あと本作で特筆すべきは俳優陣であろうか。

国内では比較的実力のある方を揃えているんだろうなというのもあるかもしれないが(自分は国内の俳優さんを評価できるほど邦画もドラマも見ていないので正確な評価ができない)、普段目にする国産のつまらーんドラマや映画などに比べて俳優さんたちがものすごく素晴らしく見えた。これは脚本がその力を引き出したのか、そう見えるようなカット割りになっているのかはわからないが、少なくとも「あちゃ~><」という感じは一切感じなかった。ちまたでネタにされていた石原さとみも(アメリカネイティブから見ればどうかというのはあるが)あれだけしゃべれれば大健闘だろう、努力されたんだろうなとは思う。あと何気にそういった俳優陣の「浮き」を感じなかったのは、何気におっさんのキャストが多かったからというのもあるんだろうな(笑)。すくなくともジャニタレに代表されるようなヒョロガリホストのようなアイドルタレントをぶち込んで「キレ者の特異能力者です!」的なクソな配役がなかっただけでも精神衛生上にいい(苦笑)。それにしてもスコセッシの『沈黙』といい、塚本信也監督、役者としてもすごくいい味出されているなあ・・・。

ということでメディアも出たことだし、ちょっともう一度見てみたいような気もする。
ちまたのオタクの皆様のような微に入り細に入りのネタ探しをするのではなく、やはり本作のこの流れるような観客を奔流に巻き込むような演出はいろいろと勉強になるので、そのあたりももう一度見直してみたい。

2回目に見て何気に一番すごいなと思ったのは実は冒頭の割り切り方。わずか数分の無駄を一切そぎ落とした一連のシーンで観客はこの映画の前提を共有し、作中の物語と人物とおなじ空間を共有している。それをこの数分でやってしまっているというのが実は一番凄いなあと思ったところでもあった。

映画館で見るのがおすすめの映画ではあるが、未見の方はDVDやブルーレイというメディアでご覧になってもけっして無駄な時間にはならない作品だと思う。特に本作は上述のように311以降を踏まえた日本の「現状認識」のシミュレーション映画でもあるので、防災意識を考える意味でも実は役に立つ映画でもある。

日本人で、この日本の世の中でまだしばらく生きて行こうと思っている方は見ておかれることをお勧めする。

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組
東宝 (2017-03-22)
売り上げランキング: 3

コメントを残す