言わずと知れた話題の一枚。ディティールとかここまでの活動歴や経緯というのは、自分よりくわしくご存知の方がたくさんいるであろうから、ここは自分がどう感じたかという切り口でご紹介しておこうかと思う。
一言でいうならまず間違いなく「名盤」と言える一枚かと思う。
トイズファクトリー (2016-04-01)
売り上げランキング: 8
これまで当然のごとくその名前は耳にしていて、その活発な活動も断片的には見聞きしていた。ただ自分は基本的にアイドル声とかアニメ声といった幼い・甲高い系の作り声がダメな人間なので―その当事者たちの努力やムーブメントとしての”旬”を感じつつも―なかなか手を出せなかった、気になるグループではあったのだ。
で、そこをブレイクスルーする要因となったのは二点。
一つはこの新譜初回盤にも特典として収録されているMETROCKの映像を以前断片的に見た際の印象、そして本アルバムからのリードシングルである以下の曲を聴いたことによる。
この曲で体現されているモノに関して、自分の前述のような懸念点は一切感じなかった。もちろんギミック的にはめ込まれている掛け声部というのは若干そういったアイドル声的な要素はあるが、これが主とはなっておらず、音としてのギミックとして聴ける―いやむしろこのギミック的な音があるからリードボーカルの魅力が引き立っているともいえるだろう。
そして「ああ、すごいな」と思ったのは―特にこの曲がそういう要素が顕著なタイプの曲というのもあるだろうが―リズム・ドラムの構成・構築、音数の豪華さというか。こういうドラムがリズムだけではなく音色的な要素として大きく存在感を示しているのは、いわゆるメタルというジャンルの中でもなかなかあるようでないんじゃないだろうか。
(こういうのはジェントという分類になるらしいとの記載見たが、勉強しないとどんどんサブジャンルわからんようになっていくなあ:泣)
そのせいもあってか、少なくとも本作のミキシングはいわゆるアイドル的なアーティストのそれじゃない、初回はヘッドホンで聞いたのだがボーカルなんでこんなに引っ込んでんのよ?(笑)と思わずニヤッとした。
しかしこれはメインボーカルの力量がこのミックスで十分に通るというのを踏まえての確信犯的なバランスだと思う。これはライブ映像を見ればよくわかるが、この轟音の中で負けずに通しているボーカルというのはもうそれだけでOK以外の何物でもない、素晴らしいです。
そしてアルバム全体も時間を掛けて丁寧に作ったんだろうな、という感じで捨て曲が一切ない。
もちろんリスナーによって好みが分かれているようなことも聞くが、昨今メタルというジャンルの縛りがあるにも関わらずこれだけバラエティに富んだ曲がそろっている一枚というのはなかなかないだろう。
※自分は海外の反応系のアンテナで記事を読むことが多いのだが、そこで賛否両論な「メタ太郎」も凄くうまい一曲だと思う。これ某ゲームで大好きだったサントラ曲とそこはかとなく似てて、そこも少しニヤッとした―このいわゆるフォーキーな感じが賛否の分かれる原因なんだろう―そしてどこか”ドカベン”テイストも感じるなw
また国内盤と海外盤で数曲曲目が違う、というのもそういう海外のファンサブの翻訳を読んでいると書いてあったので、ささやかながら海外でがんばっている若い才能への応援という意味も兼ねて海外盤も買ってみた。
earMUSIC (2016-04-01)
売り上げランキング: 32
結局国内盤との違いは2点。国内盤の「シンコペーション」の代わりに「from dusk till dawn」というダブステップ的な曲が収録されているのと、アルバムの最後を飾る「The One」が英語詞バージョンであるということ。
このあたりも凄く海外市場をよく考えての選択をしているという印象で、動と静でいうと動の「シンコペーション」の代わりに静の「from dusk till dawn」の入った海外盤を聴くと、アルバム一枚としてぐっとアーティスティックな印象が高まる。ただこの海外盤で外された「シンコペーション」も各所で指摘されるようにJ-POP、J-ROCK的なテイスト(個人的には「湿度」と表現したいところ)がふんだんに盛り込まれていて、この曲があったほうが砂糖ガンガンに突っ込んでいるようなきらびやかさ的なものがあって、このBABYMETALというアーティストの持つ根本的なところはより表現出来ていたのではないかという気がしないでもない。(個人的にこの曲嫌いじゃないですw)
もう一つの相違点である「The One」の英語詞バージョン、これは発音良く頑張っていると思う。ただどうしても先に日本語バージョンを聴いてしまっているので、日本語バージョンのほうが魅力的には聴こえてしまうな。この曲自体がアルバム中一番複雑な構造を持つが故に凄く魅力的な「Tales of Destinies」と組曲的な構造にもみえて、非常に壮大な印象でラストを締めくくる。
あといちおうこういう”旬”を向かえているアーティストは、当の御本人たちの発言も聞いてみたく思ったので以下も読んでみた。楽器を弾かないアーティストが楽器専門誌でどういう発言するかというのも興味があったので(笑)。
ほかにもタワレコのフリーペーパーもたまたま手に入ったので読んでみたんだが、なんかすごくいい意味で「良いとこのお嬢さん」方ばかりのような印象。育ちがいいというか、もちろんマネージメントがきっちりしているというのもあるだろうが、昨今のアイドルにあるようながっつきぐあいがなくて自分で考えてしっかりしゃべってるような印象を受けた。いい意味でそういうところが素直さにつながり、その素直さがこういうサウンドにも対しても柔軟に向き合っていった結果、こういう良いアルバム・良いサウンドへとつながったということだろうか。
で、ここまできたら毒を食らわば皿まで(笑)。というかこの機会を逃すとたぶんこの先ずっと聴かないだろうという確信があったので、ファーストアルバムも買ってみた。
トイズファクトリー (2014-02-26)
売り上げランキング: 24
結論:やっぱりこの時点の音は自分にはキビシイですw
ただ制作者側視点で考えると、凄く試行錯誤というかどういうバランスに落とし込むかの苦労の跡が見えるアルバムで、サウンド的にもそれを反映したきらびやかな音のアルバムではあると思う。ただこんなダンスミュージック要素が多いとは正直意外ではあったが。ある意味これを聴いて「こんなのメタルじゃねえ!」と激怒する海外のヘイターさんたちの気持ちも個人的にはわからなくもない(苦笑)。ニューアルバムが「BABYMETAL」という独自のジャンルをちゃんと具現化・体現化したアルバムだとすると、この1stは正直そこまでのものではなく、まだどっちへ振って行けばいいのか手探りの段階のような印象を受ける。なので、このアルバムが好きだったタイプの人には案外今回のニューアルバムはストイック過ぎて厳しいということもあるのかもしれない。
個人的に興味があるのは、こういう1stから今回のニューアルバムで体現されているような指向性のほうへどういう経緯を経て向かっていったんだろうかなあ、というところ。これはおそらく「ライブ」と「海外」の二つの要素が凄く大きいように思うんだが、そういったところを乗り越えられたのも、上述のようなフロントマンの三人のお嬢さん方のある種の「素直さ」にあるんだろうかな、と思ってみたり。もちろんそこには苦労や葛藤は当然あっただろうと思うんだが、根本的に若さと素直さ故の「柔軟性」があったんだろうな、と―個人的にはそういう印象を受けました。
で、やっぱりそのあたりが一番わかるのは今回のニューアルバムの初回盤特典であるライブ映像になろうだろうか―今回さらってみたアイテムの中では。
いやーとにかく楽しそうにすごく「いい顔」でライブしてらっしゃるのが印象的。そして映像で見てわかるとんでもない運動量、これは正直びっくりした。
最後にこんなので〆るのもなんなんだが、どうか体調には気をつけてせいいっぱい頑張っていただきたいと思う。
※これもついでだから貼っとくw海外のトークショー系の存在感は凄くウェイトが重いらしいので、これも快挙ですわな。
(いいライブだと思うが、個人的にはせっかくなのでもうちょっとだけダンスのシンクロはがんばってほしいとは思うw)
もし、次のアルバムが出るところまでこのBABYMETALという存在が続くなら、案外もっとすごいアルバム作ってくれそうな予感のようなモノはあるので、しばらくは古参の方や熱心なファンの皆さんの邪魔にはならん程度にフォローはしていきたいところ。まだまだこれから先が楽しみなユニットだと思う。
トイズファクトリー (2016-04-01)
売り上げランキング: 8
付記:
あと面白いなと思ったことをひとつだけ。
基本、メタルとかそういう界隈は―決してそれが決まったフォーマットというわけではないと思うんだけども―やれ呪いだ死だ恨みだ憎しみだ悪魔がどーたらという(苦笑)、どちらかというと負の側面がウリの傾向を持つジャンルだったかと思う。海外だとメタルを聴くのはスクールカースト最下層のルーザーでという話を耳にしたこともある。
で、そういう暗黒面というか人間の負の側面をエネルギーに駆動しているようなジャンルに、こういう明るくポジティブな側面を持った―けどサウンドはずっしりとへヴィな―存在が出てきたというのは、すごく物語性を感じるというか。実際にこのグループのファン層の中にそういったルーザー層のリスナーがどれぐらいいるのかは知らないが、その人たちにとって、あのキュートな3人のお嬢さんたちはどのように目に映るんであろうか。ちょっとベタなうがった見方をするなら、自分たちを暗闇から引きずり出してくれる、黒衣をまとった天使みたいに見えるのかもね。だとしたら、それは少し奇妙ではあるけど微笑ましいひとつの物語じゃなかろうか―ある意味さすが天岩戸のお話をもつ国のその直系のアーティストと言えなくもない(苦笑)。