これも随分前に読了してたんだが、未レビューだったので取り上げておく。
ほんと松田洋子氏の作品はハズレがないというか、抜群の安定感と言うか、傑作連発というか・・・。
『私を連れて逃げて、お願い。1 (ビームコミックス)』
母子家庭で母に死なれ、祖父母の元で異常な束縛の元育てられた少女・ヒメと、同じく母に捨てられ、TVだけが唯一の生き甲斐だった少年・オウジ。二人が偶然に出会ったことから始まった不思議な逃避行を描く作品である、全3巻。
ヒロインのヒメは祖父母に束縛され外の世界を知らずに成長するが、偶然オウジに出会ったことにより、その束縛された箱庭のような世界から飛び出すことを決意する。この束縛された世界からの脱出というのはブラッドベリ原作、萩尾望都翻案の『びっくり箱』をどことなく思い出させる。
そしてその祖父母による束縛の原因というのがヒロインの母が両親(祖父母)の元を飛び出し、結果的にヒロイン一人を残して死んでしまったことから、孫であるヒメを大事に大事に育てようとした・・・と思いきやさにあらず。このあたりの肉親ならではの歪な愛憎入り混じった依存やら束縛の表現の松田氏えぐり方というのはほんと素晴らしい。
一方のオウジは母に捨てられもらわれた養父母の元をも飛び出す。そんな彼の唯一の楽しみはTVを見ることだけ。そして彼はかつてのTVタレントであり、彼の精神的な庇護者であり支配者でもあるモリオと出会い彼の劇団に。
偶然出会った二人であったが、モリオの犯した殺人の犯人として追われることとなったオウジにヒメはどこまでもついていくことを決意する―それは祖父母の束縛する世界からの逃避行でもあった。
と、あらすじはこんな感じなのだが、正直本作品で描かれている内容が深すぎて、何度か読み返してみたんだが、いまの自分程度の力量ではうまく文章にできない。しかしここに描かれているのは間違いなくある種の人間の真実で、かつ人と人の、人間関係のとても大切なある種の核心が描かれているというのは間違いない。
人と人はなぜ互いを必要とし、その関係性はどうあるべきなのか―本作にはヒロインたちのほかにも様々な関係性をもった人物たちが登場するが、そのそれぞれの形はいびつであっても、なぜかどこか憎むことができない哀しさを持っている。
愛と憎しみは紙一重、あるいは愛と憎しみは同じものでできているとはよく言われる言葉だが、それを相互の依存に落とし込まず、だけれども互いの存在を支えとし、互いを必要として生きていくこと―そのなんと難しいことか。
しかし本作はそのうまく結んでいくことのむつかしい人間関係という糸のある種理想の結び方を示している。ヒロインたちの名前(ヒメとオウジ)からも分かるように、それはある種のファンタジーではあるのだが、少しビターな結末が甘いだけの物語に落ち込むことを拒否し、それ故に逆にきらきらとしたエンディングとなっているように思う。
正直こんな駄文ではこの作品に込められている素晴らしさをなにひとつ表現できてはいないのだが、それでもまかり間違って本作を読んでみようかなと興味を持ってもらえれば良いかと思い、消化不良でありつつもご紹介した次第。
松田氏の作品は『ママゴト』もドラマ化されているようなので、この機会に興味のある方はほかの作品も手にとってみられることをお勧めする。皮肉とユーモアにあふれているが、どの作品も根底には人間のどうしようもなさ、そこをも含んだ深い愛情のまなざしがあるような気がして仕方がないのだ。
うーん、やはりこの気分をうまく書けん・・・。
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正