ひとめあなたに・・・/新井素子

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このタイミングでこの本を手に取ることになったというのは、なんなんだろうな。

ひとめあなたに… (角川文庫)

「これは地球さんの余命いくばくもない、最後の一週間の出来事―。」(裏表紙あらすじより)

最後の一週間、圭子は別れた恋人―朗のもとへ―江古田から鎌倉まで「ひとめあなたに」会うため、旅に出ることを決意する・・・。
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『レインツリーの国』/有川浩

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たしか佐々木俊尚氏のtwitterのタイムライン上で、どなたかがリツイートしていて、気になったので読んでみた一冊。

レインツリーの国

自分は”恋愛モノ”が嫌いなんじゃなくて”恋愛ゲームモノ”がダメだったんだな、と再認識w

これはまっとうな”恋愛モノ”でした。

久々にシンプルな”小説”を読ませてもらった感じ。良作。
ただ人によっては、主人公の青年の大阪弁に嫌悪感を感じるかもしれない。

しかし本作では、それはヘンに狙った人物造形のためではなく、ある種不器用な主人公たちが、二人の間の溝を突破していくため必要な要素として設定されているので、読み進めていけばいくほど違和感はなくなる。

※いちおうネイティブランゲージが関西弁の自分としても違和感のないものでした。

ここにあるような二人の関係というのはなかなか昨今は難しいかもしれない。

奇しくも本ブログでたびたび取り上げてるウルフガイシリーズの登場人物・小沼竜子が「理由なんてないわ、どうしようもなく身体が熱くなるのよ!」とのたもうておりましたが(苦笑)、こういう危うい綱渡りを続けてまで執着するというのは、現実では、いまの若い子らには「キモイ」のひとことで片付けられるんじゃないかなあ。
(ここまで関係性を持ち続けようとするのは、ものすごくエネルギーが要るし)
ただそれも恋愛ってものの本質のひとつではあるわね。

もちろん本作は現実でなく”小説”、かつ、両者の葛藤が自然に描かれていて、その誠実さに心を打たれるわけですが。(苦笑)

いい意味で”軽い”(軽快な)、ライトな感じでほっこりできた掌編でした。
小説というと、ついヘビー級なそれが幅きかす昨今だが、こういうほこっとした佳作があるというのは素晴らしいね。

『犬身』松浦理英子

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松浦理英子の描こうとしてきたもののある種到達点のひとつだろう。

犬身

デビュー作以来、著者が一貫して求めてきたのは性器的なものを除外した、身体感覚を伴う愛情というのはあるのか?といっても良いかと思うんだが、そのテーマにおいて本作が一番純粋に成功しているといえるだろう。

本作ではタイトルどおり自らを「私の魂は半分犬でできている」とさえ思っていた主人公・房恵が、謎の人物・朱尾によって本当に小さな牡犬の姿に変えられてしまい、「あの人の犬になりたい」と思った陶芸家・梓のところへもらわれていく、といった舞台仕立て。

これらの言葉面だけを読むと下卑た想像をされる諸兄もいらっしゃるかと思うが、この本のすごいところはそんな比喩ではなく、それが本当に言葉通りの意味である、というとこだ。
(それを描写してしまう松浦理英子のストイックな筆致がすばらしい)

一見ファンタジーかSFかのような設定だが、そこが作者の筆力と、途中より登場してくる梓の兄・彬の存在が全体にいい意味での重さを与えている。

この彬の存在は、犬となる房恵とのある意味対比なのだが、これがなかなかえげつない。

恐らく読まれた方は皆そういった感想をもたれるかと思うが、作者にとってはおそらくいま世間一般に広く流布している人間の愛情なんて、突き詰めればこういうところへ行き着くんじゃないの?という皮肉に読めなくもない。
(そういう感覚は忘れずにおきたい)

これまでの松浦作品は冒頭にあげたテーマを表現するため、同性愛やら奇形に関するところまで書き綴ってきたが、それでも突破できない、読者の意識の中に頑強に組み込まれている「既成概念」を飛び越えるために”犬身”が必要だったのだろう。
(既成概念のまま表面だけ読む人たちには、これまでも、フェミニズムやらレズビアンだけの作家と読まれてきただろうから)

そしてそれはみごとに成功している。

更に本作がすごいのは、そういった文学的なテーマにブレないうえで、エンターテイメントとしても非常に読後感がよいのだ。こういったハッピーエンドなエンディングが松浦作品でみれるとは!

そういう意味も含めて、本作は松浦理英子、現時点での最高傑作といっても良いのではないか。

『親指Pの修行時代』も当時ベストセラーにはなったがそれは作品の設定に対する下卑た好奇心からだろう。
あの本は決してそんな好奇心だけで読みきれるほど軽いテーマを扱ってはいなかったと思うが、エンターテイメント性もあった作品なので売れたんだろうなあ。

そして本作は個人的にはかなりビジュアル化向きの作品ではないかとも思えた。
それぐらい(いい意味で)作品世界が明瞭なのだ。
勝手にキャストを想像してみる・・・

房恵は・・・上野樹里だとしゃべりすぎだな、宮崎あおいか。なんとなく犬っぽいし。
朱尾はミッチーかがGACKTか。面長ということなら前者なんだが、ミステリアスさということでGACKTだな。
梓は・・・うーん、眼鏡掛けてるイメージではあるんだよね。
ちょっとはずれるんだが、容易に心を覗かせない・植物的な印象、という意味では意表をついて仲間由紀恵あたりが面白いかも。(こんな汚れ役、できるかどうかは別として)
彬と母親は難しいな、てか自分日本人の役者知らなさ杉www

・・・という具合に、ひとりキャストを想像して楽しませてもらった(苦笑)。

そして案外これは日本だけでなく外国でもニーズがある物語のようにも思う。
むしろキリスト教圏にこそ必要ではないか。

ただ、その強固な男女の役割文化の前には、本作は、文字通り悪魔の所業に映るかもしれないが。
(逆にいうとだからこそ意味がある)

一見シンプルかつクリアーな物語だが、その下には毒がたっぷり含まれている。
ただその毒というのは、作者が盛ったのではなく、我々の作ってきた社会が澱のようにためてきた毒だが。

まあ毒に当たってものが見えるようになるということもあるし(苦笑)。

そういう怖いものみたさの人は是非どうぞ。
読むひとによっては、何も感じずに、単なるエンターテイメントで終わるかもしれないが。

ある意味リトマス紙的な作品とも言えるかもしれない。

セリ・シャンブル

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さがしてさがしてさがしてようやく入手w
(あるにはあったんだがどこもかしこもアホみたいな価格ばっかりだったので適価でみつけられなかったのだ)

大原まり子・松浦理英子の部屋 (セリ・シャンブル





自分のなかでの女性作家・東西両横綱の二人がこんな本を出していたと知ったのは数年前。

大原まり子はフツーにリアルタイムで読んでいたが松浦理英子は確かその数年後。
二人が接点あるなんてぜーんぜん知らずに読んでいた。

「いかんいかん、機械すら感知するとは・・・自分のカンは信じるものよな」

といったかどうかはさておき、無意識の感覚って言うのは恐ろしいもんですな、ちゃんと嗅ぎ分けてる(苦笑)。

で、まだ半分ぐらい読んだだけなんだが面白すぎるw
というか、もちっと若いころに読みたかった、ある意味エネルギー要る。

大原まり子の小説の中に出てくる大好きなキャラクターのひとりに姫野裕子という超能力者のキャラクターいるんだが、これ読んで確信。

たぶんモデルは松浦理英子だw

いや、なんにせよ好きな作家のツー・トップなムックというのは至福モノ。
はなぢブーw

お二人とも最近表立った動きが見られないのが唯一残念なところ。

石井ゆかり二題

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ずいぶんまえに両方とも買ってたんだが、なかなか紹介するのに良いタイミングなかった。

星ダイアリー 2011

星読み+

ごぞんじ石井ゆかり嬢の著作二題。

これから年末に向けて「年を改める」タイミングなので占い関係はwebや雑誌等でも大にぎわいなんだが、やっぱりこの人の著作は一風変わっている。
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愛・・・だなぁ・・・

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不覚にもこんな素敵な文章があるとは知らなかった・・・。




 ヘルンは虫の音を聞く事が好きでした。この秋、松虫を飼っていました。九月の末の事ですから、松虫が夕方近く切れ切れに、少し声を枯らして鳴いていますのが、いつになく物哀れに感じさせました。私は『あの音を何と聞きますか』と、ヘルンに尋ねますと『あの小さい虫、よき音して、鳴いてくれました。私なんぼ喜びました。しかし、段々寒くなって来ました。知っていますか、知っていませんか、直に死なねばならぬと云う事を。気の毒ですね、可哀相な虫』と淋しそうに申しまして『この頃の温い日に、草むらの中にそっと放してやりましょう』と私共は約束致しました。



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