【レビュー】『ウィンドリバー』テイラー・シェリダン 監督

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amazonプライムで以前観た『ボーダーライン』がすごく印象に残る作品だったんだけども、その脚本家が監督デビューするとのことで劇場の予告編でみて以来気になっていた一本。自分としては珍しく公開日に観にいってきた。

結果、昨今ではなかなかお目にかかりにくい骨太でハードボイルドな一本。『ボーダーライン』の時もそうだが本作もある程度実話に基づいた物語だそうで、淡々とした描写がかえってアメリカ社会の暗部の救いのなさを浮き彫りにしている見事な一本だった。



上にトレーラー(予告編動画)を貼っておいたが、本編はもっと静かで淡々と進む感じ。それでいて観客の集中力を切らさない造りになっているのはさすが。『ボーダーライン』は話題になったブレードランナーの続編『ブレードランナー2049』等で昨今名を挙げてきている‎ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督だったが、どことなく雰囲気が似ているのも面白い。こういう空気感を想起させる脚本家だということだろうか。

ジャンルとしては社会サスペンスものになると思うが、北部のネイティブアメリカン居留地で若い女性の死体が見つかり、その第一発見者であるハンターのコリーとFBIのジェーンがその謎を追う。コリーはネイティブの女性と結婚していたこともあって居留地のコミュニティに顔が効き、自身も数年前に娘を同じような形で亡くしていた。雪に覆われた広大な地区にわずか数人の捜査官しかおらず増援も望めない。しかし二人を中心に捜査陣は辛抱強く犯人を追うが・・・。

本作で描かれているのはネイティブアメリカンの差別と生きにくさ。加えていわゆる白人でも下層階級にあってプア・ホワイト・トラッシュと時には呼ばれる層の、弱者・マイノリティが結果的に互いに阻害しあっているような実態。娘を亡くしたネイティブの父親と主人公であるハンターのコリーとの友情の描写がいい。

ご存知の方はご存知かと思うが、北米のネイティブアメリカンはその経緯から居留区や補助政策がかえって仇となり、社会的弱者、社会的底辺層へと落ちてゆきそこから抜け出せないことがかなり問題となっている(自分の知識は『ともいきの思想 自然と生きるアメリカ先住民の「聖なる言葉」 』という10年ほど前の本からになるが、本作を見るとこの点あまり抜本的な変化はないようである)。そういったマイノリティとしての生きづらさと単純に猛烈な自然環境の厳しさ、その双方がこれからを生きなければならない若い世代にのしかかるわけである。

本作はそういった若い世代の生きづらさ中心に描いた物語ではなく、むしろ彼らの親の世代の視点で描かれる物語であるが、だからこそその救いようのなさがコミュニティ全体を蝕んでいくというのが分かる。そしてそういう雪で覆われた掃きだめの地にいるのは彼らマイノリティだけではなく前述のようなクズ白人も追いやられてくるわけである。弱いものが弱いものを食いものにするというある種本当に「最果ての地」という感じだ。

しかしハンターである主人公コリーのストイックさ、その矜持がそういった厳しい環境にあっても生きていかざるを得ない者たちの物語の中で唯一救いになっている。

また本作の良かったところは、実話をベースにしているということもあるだろうが変にべたべたしたラブシーン的なものが一切ないこと。ヒロインとしてFBIのジェーンが出てくるが、彼女も無知ではあるが無能ではなく、ハードな現場にもめげない知的でタフな女性として描かれている。言葉尻だけをとらえてギャーギャー言葉遊びに淫している日本のクソフェミの皆様に彼女の詰めの垢を煎じて飲ませてやりたいくらい柔らかくもタフでほれぼれとするキャラクターだw

そしてもう一つ感じたのは「銃社会」アメリカの救いようのなさ。ああ、こらいくら頑張ってもこれだけ銃が当たり前のように使われるならそら救いようがないわというのが(本作のメインテーマでないにもかかわらず)よくわかった。(そういう秀逸なシーンがあるのです)

上映館がほぼ単館だと思うのでなかなかみる機会を得ることが難しい一本かと思うが、チャンスがあればぜひご覧になってみていただきたい。
こういう骨太なハードボイルドな作品はまず昨今の邦画では絶望的にみることのできない一本。鑑賞後、ある種の深い感慨に満たされる一本である。

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