4月末に水天宮は日本橋公会堂で行われた公演を見に行ってきたので遅ればせながらレビューしておく。
最近自分の知っている歌手の中では突出して歌が上手いと感じるシンガーの一人に小林未郁さんがいる(べらぼうにうまい)。本公演は、彼女の歌をがっつり聞きたかったというのもあるが、日本刀の殺陣がメイン+海外で結構公演を重ねて公表ということもあって以前から気にはなっていた。とはいえなかなか観にいくタイミングがつかめなかったのだが、このインタビューを読んだのもあり観にいってきた。
舞台構成としてはピアノによる弾き語りをバックに、殺陣を見せるための劇―というかパフォーマンスーで構成されるいい意味でシンプルなもの。セリフも一切ないので、劇というよりはやはり一種のパフォーマンスというか舞台といってよいかと思う。なかなかセリフなしで見せ切るというのは勇気がいると思うが、そこはメインとなる殺陣に対する絶対の自信と小林さんの歌の説得力があるからだろう。そしてそれはきちっと効果を発揮していた。
それでもいちおうストーリー的なものがあって、一人の剣客が戦いの中で一人の子を拾い、最期は彼にすべてを伝えて消えていくとでもいった感じか。当日の演目を書いたパンフレット的なものを見ると武蔵と伊織をすこし意識しているのかもしれない。
でメインディッシュたる殺陣である。
ここは主演と思われる島口哲朗氏のそれはやはり見ごたえがあった。一つは氏の立ち姿に貫禄があるのがいいのかもしれない。なぜこう書くかというと、やはりほかの方の殺陣は見てて華やかでスピード感もあるのだが”腹の据わり具合”的なものがまだ今一つのように自分には見えたため。
自分ができもしないことをこのように外野からあーだこーだいうのはみっともないことを承知の上で書くのだが、やはり昨今はこういった武術的なものコンテンツが目に触れる機会というのは以前に比べて圧倒的に増えている。すると当然観客側の目も肥えてきているので、やはりそのあたりは今後よりシビアに見られざるを得ないだろう。自分が今回気になったのは要は体重というか重心の高さ。華やかさがウリの殺陣なので、このあたり仕方なくはあるのだが、やはり腰が据わっていないと腕だけで刀を振る形になるので、それは見ていてせっかくの斬撃に”重み”を感じない結果となる。そこは少しもったいないなと。
ただこのあたり、こういう実際に自身のフィジカルなものを使ってのパフォーマンスをする側はある意味不利な立場だなあと同情もする。さきほど武蔵云々と書いたが、その点一つとっても比較対象として井上雄彦氏の『バガボンド』等のあれだけ「重くて痛い」というハイレベルの斬撃の描写なども巷には既にあったりするわけである(たぶん描写としては井上氏のそれは最高峰の一つと言っていいと思う)。そこに対抗するためにはやはり生身ならではの身体性を研ぎ澄まさなければならないワケで、そこと時代劇から独自に発展してきた殺陣としての剣技ならではの華やかさ―その両立はやはりまだ課題は残っているように見た。
しかしこういう頭でっかちなことを考えずに、単純にエンターテイメントとしてみるとやはり日本刀を使った殺陣ならではのスピード感や華やかさは見ていてとても楽しいし、こういうある種エキゾチカルなコンテンツは海外ならもっと需要があるだろう。そしてまだ改善の余地がある、というのはさらにまだ伸びしろがあるということでもある。方向性や志というのは決して間違っていないと思うので、是非ともさらに技を磨いていっていただきたいと思う。素直にそう思えるいい内容のコンテンツだった。
そして小林未郁さん歌である。
いやー澤野弘之氏関連のライブをけっこう観にいっているので、すごいのは知っていたが、これまではどうしてもほどほど大きな会場でPA通してのものだった。で、今回もPAうっすらと通ってはいたがより生に近い状態+ご自身の弾き語り。
いや、凄いわ。
舞台前面で進行する殺陣の舞台の後ろでばっちりとそれを音楽面で支え、いわば舞台の背骨となっていたのは間違いなくこの小林さんの弾き語りだ。いわば一人で正面で演じられているものと拮抗するだけのものを、小林さんの歌とピアノは放っていた。そして生なのに全然歌や演奏にブレがない!「プロ」とは本来こういうものを指したのよなあ・・・。おまけに今回はいわゆるせり出しがあったのでクライマックスでは歩きながらの独唱もあり。あの小さい体からは出るとは思えない朗々とした歌唱。使われた楽曲は直近のアルバムである『Mika(Type い)』からがほとんどで、PVにもなった『せむし男の恋』のパートは曲を活かしたやや独立的なストーリー仕立てでわかりやすく、本編クライマックス近くでの『桜の園』は壮大で素晴らしかった(この曲は個人的にも大好きな曲だったので大満足)。
本公演はヨーロッパ凱旋公演とあるように欧州での舞台の菜園のアンコール公演のようだが、好評らしく今後全国での公演もひょっとしてあるかも的なことをTwitterでちらっと見かけた。なかなかあるようでない種類のパフォーマンスなので、是非とも大きく育てて、そしてもっとクオリティを上げていってほしいと思う。それだけの可能性を感じたいい舞台だった。
miccabose label (2016-06-22)
売り上げランキング: 89,028